第71話 ぶつかり
相撲部の部室に案内されたリナは半袖の体操着とスパッツ姿になると、3年の副部長がまわしを締めてくれた。
副部長はリナのウエスト周りにまわしを巻いている時に鍛え上げられてくびれたウエストに驚いていた。
まわしを締め上げてもらったリナは副部長と共に土俵の方へ向かうと準備運動をしてから、ウォーミングアップと身体を温めるのにぶつかり稽古をすることになった。
「西園寺さん、私が受けてあげるから思いっきり当たってきな!」
副部長はそう言うと前屈みになり両手を構えて受け身の体勢を取った。
身長は163cmとリナより少し低めだが本格的に身体を作り込んでいるので体重は88kgと女性力士らしい体格でリナが一段と痩せて見える。
リナは「よろしくお願いします」と一礼すると左手を土俵に着いて呼吸を整えると右手を土俵に着けたと同時に一気に副部長の胸にぶつかっていく。
バチン!といういい当たりの音に部員達は「おぉ!」と想像以上のリナの素早い当たりと勢いに驚いていた。
副部長を土俵の外に押し出すとリナの様子を腕を構えて見ていた部長が「素晴らしい!」と拍手をした。
続けて部長はリナに言った。
「今の当たりを見て三河が西園寺さんを推薦した理由がわかったよ。君は一見痩せて見えるがいい筋肉をしているし流石に経験者だ。早速、うちの控えの子と試合をしてみよう」
部長はそう言うと控えの2年生で1番強いという鹿野さんを呼んだ。
彼女は身長は160cmと女子の平均くらいだが、体重が100kgと相撲部一の重量級らしい。
鹿野さんは「よろしくね」と握手の手を出してきたのでリナは握手を交わした。
リナと鹿野さんが土俵に上がると2人の体格差に部員達は「同じ女と思えない」や「絵面だけ見たら勝負にならないよね」など笑っている。
リナと鹿野さんは塩を撒くと蹲踞をしてお互いに顔を合わせるとゆっくりと片方の手から土俵に着けて両手を着いた瞬間に「はっけよい!」の掛け声と共に2人は勢いよくぶつかり合う。
体重が100kgもある鹿野さんに張り手で右肩を押されて少し体勢を崩しそうになるが、体格差で圧倒されているリナは一瞬の隙を突いて一気に頭から突っ込んで右手で下手、左手で上手を取ると体勢を低くし脇を締めてまわしを掴んでいる手を絶対に離すまいと鹿野さん身体にしがみつく。
下に入り込まれた鹿野さんも両手で上手を取るとリナにのしかかるように低い体勢を取ってお互いに様子を伺うようにその場に止まると2人の取り組みを部員達は沈黙したまま真剣な眼差しで見ていた。
先に動いたのは鹿野さんで100kgという体格を活かして上手を取っている利き手でリナの身体ごと持ち上げて豪快な上手投げを繰り出そうとするが、リナは鍛え上げられた両腕の力と両足をしっかりと土俵につけて必死に耐える。
鹿野さんは左右に振り回して自分より遥かに軽いリナの体勢を崩しにかかると周りで見ていた部員達は「流石に体格差がでかすぎるか…」と鹿野さんの勝ちを確信している時だった。
リナは左に身体を振られた際に一瞬の隙を見抜いて左足で鹿野さんの右足に外掛けすると鹿野さんを後方にバランスを崩して背中から倒れた。
リナが見事な切り返しで勝利すると部員達は「おぉぉ!」と声を出して拍手喝采が起こる。
倒れた鹿野さんにリナは手を差し伸べるとリナの手を借りて立ち上がった鹿野さんが言った。
「完敗だよ、西園寺さん。貴女は体幹も良いし取り組んで思ったけど細いけど筋肉がしっかりしてるし技の決め方も鮮やかだね。一恵ちゃんが推薦した理由も納得だし、私自身も体格が全てじゃないと改めて勉強になったよ」
「私もブランクがあったので自分より体格の良い人と取り組めて鈍っていた勘が戻ってきた感じがします。ありがとうございました!」
リナと鹿野さんが握手を交わしていると部長が拍手をしながらこちらにやってきてリナに言った。
「お見事だよ、西園寺さん。是非、君に団体戦のメンバーとして試合に出てもらいたい」
リナは「どこまで一恵の代わりができるかわかりませんが、頑張ります」と部長に言うとリナは大会までの臨時相撲部員となった。
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