第65話 化け物

買い物を終えて舞華の自転車屋に戻ったリナとフランは、エコバッグを休憩スペースのソファに置くと自転車やバイクを整備している整備スペースに足早に向かうと高性能のスポーツタイヤの新品に変えられて20000rpm以上のスケールが刻まれたタコメーターに変わり本来のパワーを引き出せるようになった新生バリオスがリナの帰りを待っていたかのようにリアスタンドを立てられて今にも走りに行きたいとバリオスが語りかけてきてるみたいだ。

明らかにタコメーター交換前とバリオスの雰囲気が違う。

舞華は汚れた手を拭きながらリナに言った。


「お望み通りバリオスのタコメーターの交換終わったよ。ただ、タイヤが新品で滑りやすいから慣らしが必要だね」


ようやくこれで本来のパワーで走ることができる。

舞華が「これからどうするの?」と聞いてきたので、リナが「タイヤの皮剥きがてら都内を走りたい」と言うと舞華がタイヤ慣らしにもってこいの場所を教えてくれた。

舞華がよく新品タイヤを慣らしで利用しているのは、都心エリアで唯一リズムよく走れる首都高速だ。

夕方の今の時間帯だと交通量が多いが夜になると比較的空いてくるので快適に走ることができる。


「2人共、今日はうちに泊まっていきなよ。夜はバリオスの慣らし走行でも行こう!」


舞華が一晩泊めてくれることになったので、リナとフランは宿代が浮いたことに密かに喜んでいた。

夜まで時間があるのでとりあえず3人は先程リナとフランが買ってきた飲み物を飲みながらソファに座り込んだ。

この絶妙な沈みこみが良すぎて、1度座ってしまったらしばらく立つことができなくなりそうだった。

早速、舞華は買ってきてもらった缶ビールをプシュ!と良い音をさせながら開封すると、グビグビと飲み始めた。


「えぇ!?夜、走りにいくのにもう飲むんですか?」


「大丈夫、大丈夫!走りに行くと言っても夜遅いしこれ1本しか飲まないからそれまでには抜けるよ(笑)うちにアルコール検査キットあるし」


相変わらずめちゃくちゃな考えの人だとフランは思ったが、何歳になっても子供っぽい所がある舞華がなんだか羨ましくも思えた。

そんな舞華だがバリオスの話をリナに始めた途端に顔は酒でほんのりと赤くなっているが真面目な顔をしてこう言った。


「このバリオスは…ハッキリ言って化け物だよ。アタシが長年かけて熟成させた唯一の4ストと言ってもいいくらいさ。死ぬ気で乗りな!リナちゃん!」


舞華はバイクのことでは冗談は言わない。


本気でこのバリオスを乗りこなすという気持ちを持っていなければ簡単にバイクに振り落とされて、最悪の場合大怪我をして痛がることすらできない可能性だってある。


リナは自分の掌を見ると、手汗をかいていた。

怖くないと言えば嘘になるが、怖いと思っていたら絶対に乗れなそうな気がしたのでリナは覚悟を決めた。




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