第61話 偶然
「うちらもぼちぼち東京向かおうか」
リナがフランにそう言うと「OK」と日本人の言い方とは違う外国人特有の発音でフランは返事をすると2人はバイクのエンジンを始動した。
「おーい、リナちゃーん、フランちゃーん」
聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると、そこには作業ツナギを着た舞華がいた。
どうやら仕事でこっちの方まで来ていて、このPAに寄ったら偶然にもリナ達とばったり会った。
リナはついさっきかけたエンジンを切ると真面目な顔をして舞華に言った。
「舞華さん、ちょうどよかったです。舞華さんの所へ向かう途中だったんですよ、バリオスのタコメーターのことでお話があって」
リナはそう言いながらバリオスのタコメーターに手を置いた。
舞華の表情が曇るのがわかった、舞華は絶対に何かを隠している。
リナは続けて舞華にこう言った。
「バリオスの馬力がフランの25Rと比べると全然出ないんです。ちょっと前に知り合ったひとつ歳上の人にタコメーターを変えて回転域を抑えられていると言われましたけど…そうなんですか?」
舞華はため息をつくと本当のことを話し始めた。
「ついにバレちゃったか…、その歳上の人の言う通りそれはバリオスの純正タコメーターじゃない。それはアタシが細工した回転域をリミットする為のインチキメーターさ」
舞華は、このメーターを取り付けた理由を話してくれた。
免許を取り立てのリナにはバリオスのパワーバンドの回転域を扱うのは難しいと判断した為、この舞華特製のリミットメーターを付けたのだという。
当初、このバリオスに乗らせるのは東雲先生も反対していてこのリミットメーターを付けることで許可してくれた。
全てはリナが事故らないように大先輩ライダー達からの思いやりの気持ちだったわけだ。
しかし、リナも随分とバイクのテクを上達させてきているのは舞華や東雲先生もわかっている。
そんなリナに舞華は言った。
「ねぇ、リナちゃん?これからアタシの自転車屋にくる?バイクはアタシのトラックに乗せて、リナちゃん達はトラックの助手席に乗りなよ、3人乗りだからさ」
舞華はそう言うとエンジンを切ったままリナ達のバイクを自分のトラックの方に押して行き、荷台にバリオスとZX25Rを慣れた手つきで載せた。
舞華がバイクを載せている間にPAの自販機で飲み物を買ってきたリナ達が戻ってくると3人はトラックに乗り込んだ。
リナとフランがシートベルトを付けたことを確認した舞華は「それじゃ、行こうか」とトラックのエンジンを始動して走り出した。
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