第54話 破天荒すぎる特訓
東京都八王子市。
甲州街道の東京都と神奈川県を結ぶ大垂水峠にフランはいた。
「よーし、フランちゃんぼちぼち始めよっかー♫」
「はい!よろしくお願いします!」
一緒にいるのは東雲先生の義理の叔母であり元走り屋仲間の斉藤舞華だ。
舞華は現役時代から生粋の2スト乗りで物凄い白煙を上げながら超スピードでイン、アウト関係なく一気に抜き去っていく姿から「白煙の舞華」と異名が付いた「電光石火の萌歌」「名刀使いの奈々未」と並ぶ箱根の伝説の走り屋の1人だ。
今日はなんと舞華のホームコースとも言える大垂水峠を国家権力の方々に許可を取って特例で貸し切りにした。
今だけは公道ではなく私有地的な扱いなのでまだ免許を取得していないフランでも走行可能だ。
舞華…本当に何者…やり方が破天荒すぎる。
「今日はこの峠は合法的に貸し切りにしてもらったから、今日はアタシ達の練習場だよ!思う存分走ってよ!」
当初は東雲先生が基本的な乗り方を教えていたが、練習しているうちに自分が教えるより舞華の方がフランには合ってるかもしれないと思った東雲先生が舞華に頼んでみたところ快く引き受けてくれた。
舞華の方が合っている理由が、フランが舞華とタイプが似ていたことだ。
人がやってることを見て直感的に真似してやってみるところが舞華に似ていた。
東雲先生の読み通りフランはかなりセンスが良く、秋から練習がスタートして数ヶ月でまともに乗れるようになってしまった。
今日、フランが使うバイクは10年くらい前に人気だったZX25RというKawasakiのスーパースポーツバイク。
説明するまでもないが、これはノーマルではない…
排気系はフルエキで排気効率が阻害される触媒は無論取り外されており、コンピューターどころかエンジン内部にまで手を加えられレブリミットを19000rpmまで引き上げられた魔改造すぎる魔改造車で最高出力は68馬力と初心者のフランを殺す気でいるのかもしれない…
舞華のチューニングは限度というものを知らない。
本来であれば安全マージンを確保して抑えるところは抑えるのだが、舞華は常にエンジンのパワーをとことん絞り出し尽くすスタイルでチューニングする。
「じゃあ、フランちゃん先に走りなよ!アタシは後ろからついていくからさ」
なんとも舞華に後ろに走られるとプレッシャーしか感じないが、これはあくまで練習であってバトルではない。
フランは大垂水峠を神奈川方面に向かって走り出していく。
舞華から予め調子に乗ってスロットル開けすぎるとフロント浮き上がるから気をつけてと言われてるのでフランは慎重に確実に峠のコーナーを抜けていく。
舞華は後ろから走りの様子を見ている。
やはりかなり筋がいい、今まで舞華が見せてきた走りを見て荒削りだけど確実に自分の物にしてきている。
フランはここ最近は魔改造のZX25Rを乗って練習しているので、だいぶマシンの癖などもわかってきた。
大垂水峠を東京側と神奈川側を何度も往復して、舞華がダメな点を指摘しつつ少しずつ改善するようにフランは意識する。
特に峠道を飛ばすようなことはしていない、基本に忠実に走って着実にフランの運転レベルを上げていく。
フランと舞華は最初のスタート地点に戻ってくると舞華が言った。
「フランちゃん、今日はここまでにしよう!というより、これでアタシからの指導は終わりだよ。あとは免許取れるように一発試験頑張ってね」
フランは今日で最後とは聞かされていなかったのでちょっと戸惑ってしまったが、指導がこれで終わりということは舞華がもう大丈夫と判断したということだろう。
「舞華さん、ご指導ありがとうございました!」
「君はセンスあるよ、フランちゃん。そのZX25Rは免許が取れたら君に譲るよ!一発試験に合格したら連絡してよ、それまでにそのバイクを整備済ませておくからさ」
舞華はそう言うと自分の350SSとフランのZX25Rをここまで乗ってきた積載車に載せた。
「先にトラックの助手席乗ってて」と舞華はフランに言うと峠道の方を見た。
舞華自身が10代の頃に何度も走り込んだこの大垂水峠で、今度は自分が若い子にバイクの乗り方を教えるようになったことに時の流れを感じていた。
遅老症という異例すぎて前例のない極端に老化が遅い障害の影響で58歳になっても見た目が20代前半で体力面も20代の舞華だが、今は自分が現役で走るより若い芽を育てることに楽しみを覚えていた。
「若い芽を育てて見守る立場ってのも、案外悪くないもんだね…ね?奈々未先輩…」
舞華は空を見ながらそう呟くと積載車の方へ歩いていった。
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