第50話 計画的犯行

佐倉奈々未が亡くなってから数週間が経ったある日のことだった。

奈々未の葬儀も終わり萌歌や幸助も仕事をぼちぼち再開してきた頃だった。

梅雨の時期の貴重な晴れの日に1人の男性ライダーが萌歌の勤める静岡の大井川のバイク屋にやってきた。


「よぉ、萌歌」


萌歌はバイク整備をしている手を止めて呼ばれた方に顔を向けるとそこには敵対している走り屋チームのリーダーである榊原慎一がいた。

榊原は箱根の椿ラインをホームコースとしていてSUZUKIの隼を操る亡くなった奈々未のライバルだった。

勝負は50戦中18勝32敗と奈々未に負け越しており、奈々未が死亡したことで勝ち逃げされたようで納得出来ずにここにきた。

榊原の声が聞こえて店の奥から店長の幸助もやってきた。


「よぉ慎一、お前が来るなんてどういう風の吹き回しだよ」


榊原と幸助は何かと昔から馬が合わずに言い合いになった犬猿の仲で、10代の頃はバイクの速さを競い合ってきた。

その中でもぶっちぎりに速かったのが奈々未で3人の中でセンスが飛び抜けており、榊原は特に女性でテクニックを持つ奈々未に嫉妬していた。

その後、榊原は幸助や奈々未の前から姿を消して箱根の方で走り屋チームを作って腕を磨いていた。

萌歌が普通二輪免許を取得して奈々未や舞華と箱根の方に走りに行くようになってからは、榊原のチームとよく対立していたが萌歌と舞華だけで榊原の主力メンバーに椿ラインで勝負して勝ってしまうので実質奈々未と榊原の一騎討ちになることがほとんどだった。


「榊原さん、何の用ですか?」


萌歌は少々低めのトーンで敵意を出しながら言うと「そんなケンカ腰になるなよ」と榊原は煙草に火をつけて灰皿のある喫煙スペースとして使っている椅子に座る。

続けて榊原はこう言った。


「ニュースは見ただろ?大型トラックで奈々未が運転する教習車に突っ込んだ大和田容疑者のことだ。名前を聞いて察してると思うがうちのチームの大和田だよ」


「やっぱり榊原さんのチームの人でしたか、名前を聞いたときはまさかとは思いましたけど…まさか榊原さん、貴方が仕向けた訳じゃないでしょうね?」


萌歌の言葉に榊原は急に大声で笑い出した。

この人は何か企んでいる…そう思っていると榊原が萌歌に言った。


「やはりお前は頭がキレるな、萌歌。…そうさ、俺が大和田を仕向けた…酒を飲ませてな。」


隣で聞いていた店長の幸助が物凄い剣幕で榊原に詰め寄り胸ぐらを掴んで怒鳴り散らした。


「慎一ぃぃ!!テメェの差し金だったのか!!奈々未を殺しておいてのうのうと俺の店まで来やがって!!一体どういうつもりよ!?あぁ!?」


「……教えてやるよ、俺は奈々未が乗ってたカタナ1135Rが欲しいんだよ。昔から憧れてたカタナ…この計画を実行するのは流石に俺も手が震えたぜ…カタナ、ここにあるんだろ?」


その言葉に怒りが頂点に達した幸助は胸ぐらを掴んだまま店の外に引きずりだして榊原を全力でぶん殴った。

アスファルトに倒れ込んだ榊原の上に馬乗りになってさらに追い打ちをかけようと拳を構えたところで萌歌がそれを止める。

萌歌は拳を構えている右手首を掴みながら仰向けで倒れている榊原に言った。


「榊原さん…いや榊原慎一!私と椿ラインでケリをつけよう。私が奈々未先生のカタナに乗って貴方と最後のバトルをしてやるわ!私に勝ったらカタナを好きにすればいい」


その言葉に幸助は「萌歌ちゃん!?本気か!?」と戸惑っていたが萌歌は本気だった。

大切な師匠を殺されて榊原をのうのうと生かしておくわけにはいかない。

走り屋なら走り屋らしい引導を渡してやることを決意した。


「いいだろう…奈々未の弟子の萌歌なら文句はねぇ。勝負は明日の早朝だ!ケリをつけようぜ!」


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