第39話 数ヶ月ぶりに
金曜日の夜。
東雲先生こと萌歌は、家のガレージの奥にある1台のバイクを引っ張り出していた。
カバーを外すと、少しだけ埃っぽくなっていたがビカビカに磨き込まれたSUZUKIの旧車・イナズマ400が姿を現す。
セパハンにバックステップでマフラーはワンオフ製、エンジンはかなりチューニングされている。
萌歌がしゃがみ込んでイナズマを見ていると、1人の男性が話しかけてきた。
「あれ?萌歌、珍しいな?イナズマなんて引っ張り出してどうしたんだ?」
話しかけてきた男性は、夫の陽翔だった。
舞華の甥っ子であり、萌歌と同い年で2人が20歳の時に結婚した。
お互いにバイク好きということもあり、小柄で可愛らしいルックスで相当なバイクのテクを持った萌歌に惚れて17歳の時に付き合い始めたのがキッカケだ。
「明日、バイク部の活動で山梨までツーリングしに行くんだけど、後ろに免許を持っていない部員の子を乗せるから久々に引っ張りだしたのよ。しばらく、オイルも変えてなかったし」
そう言いながら、受け皿をイナズマの下に置いて手慣れた感じでオイルを抜いていく。
「フィルターも交換するのか?」と陽翔が言うので、萌歌が頷くとガレージの棚に置いてあった新品のフィルターを萌歌に手渡した。
10代の頃にバイク屋に勤めていた経験のある萌歌は、バイクの整備は一通りできるのでオイル交換は慣れたものだ。
新品のフィルターの取り付けが終わると、新品のオイルをイナズマに入れる。
新品のオイルを循環させる為にセルを回すが、しばらくエンジンをかけていなかったのでセルが弱々しい。
「……押しがけするしかないわね」
幸いにも周りに民家がないぽつんと一軒家なので、夜にバイクのエンジンをかけても文句を言われる心配がない。
萌歌はガレージの外に出すと、家の前の直線道路にイナズマを向ける。
「萌歌、跨りなよ。後ろから俺が押してやるからさ」
陽翔が手伝ってくれそうなので、萌歌はギアをセカンドに入れるとキーONにして燃料コックを動かしてキャブレターにガソリンを送る。
クラッチを切って準備ができると「陽翔OKよ」と合図して陽翔がバイクに跨った萌歌ごと一気に押し始めた。
ある程度、勢いに乗ったタイミングで萌歌が言った。
「陽翔!もう大丈夫よ!バイクから手を離して!」
陽翔がイナズマから手を離すと萌歌は立ち乗り姿勢を取った、そのまま一気にタイヤにトラクションをかけるようにシートに座り込むと同時にクラッチを繋ぐとボッボッ!と音をたてながらイナズマのエンジンが点火して見事に押しがけに成功した。
「おぉ!流石!エンジンも調子良さそうだな!」
手慣れた押しがけに陽翔も思わず拍手をして感心している。
エンジンも問題なく回るし、明日もツーリングも大丈夫そうだ。
「バッテリーの充電がてら近所を走ってくるわ」
萌歌はそう言うと快音を奏でながら走り出した。
やはりイナズマに乗ると、10代の頃のギラギラしていた時の気持ちが蘇ってくる。
まさか自分がまたバイク部の顧問としてバイクに関わることになるとは思わなかった萌歌だが、こうして顧問に推薦してくれたリナ達には内心感謝していた。
今の主役はリナ達だ。
今後はサポート役として萌歌は、陰ながら彼女達を支えていこうと思った。
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