第31話 伝説の電光石火

男性ライダー達は、そろそろ出発するのか10年くらい前のCBR1000RRとZX-10Rのエンジンを始動している。

東雲先生もリナから預かったキーをバリオスに挿し込むとエンジンを始動した。

チューンドエンジンのマフラーサウンドが響いたのか、先程の男性ライダー達がこちらを振り向いた。

東雲先生は、男性ライダー達の元へバリオスを走らせて近くにいくと少し喧嘩腰の口調で言った。


「さっきはどうも、これから峠でも走りいくんですか?」


男性ライダー達は、これから椿ラインに走りに行くらしくグッドタイミングだと思った東雲先生は、続けて言った。


「久々に私も椿ライン走りたいと思ってまして、お兄さん達一緒にどうでしょう?ご自慢の大型SSと走れるなんて私は感激ですよ」


東雲先生がそう言うと「お姉ちゃん、ついてこれる?」「おじさん達、速いよぉ??」と見下すような言い方をしてきたので東雲先生は問題ないと返事する。


東雲先生と男性ライダー達は、椿ラインに向かって走り出したので舞華がエイプを運転して後ろからこっそりついていくことになった。


三島スカイウォークを出てからアネスト岩田スカイラウンジを過ぎると先頭を走っていた男性ライダー達が加速していく。

東雲先生も離されないように加速するが、チューンドエンジンとはいえ250ccの排気量では大型にはトルクでは負けてしまう。


「あーー、流石に加速されたらエイプじゃ無理ぃぃ!」


舞華も加速してついていこうとするがタンデムしてる上に100ccのパワーでは、どう考えてもついていけるわけがない。


最初のコーナーを男性ライダー達は、パワーに物をいわせて抜けていく。

舞華は「リナちゃん!よーく萌歌ちゃんを見ておきな!」と言うと、リナは横に顔を出してコーナーに進入する東雲先生を見ていた。

次の瞬間、凄まじい速さでコーナーを抜けていく東雲先生を見たリナは言葉を失った。

電光石火の如く抜けていく姿は、まるで雷の落雷のような速さで目で追えなかった。


「流石!伝説の電光石火の萌歌は錆びついてないね!」


舞華がそんなことを言ってる間に、あっという間に姿が見えなくなってしまった。

先頭を走っていたCBR1000RRのライダーがハザードを焚いて一番後続を走っていた東雲先生に右手で「先頭に行け」と合図を送っている。

男性ライダー達は予め東雲先生を先頭に行かせるつもりだったのだろう、ZX-10Rのライダーもハザードを焚いて先に行かせようとしている。

要はコチラは大型だから余裕でいつでも抜けるんだよと見せつけたいのだろう。


「あら、親切なお兄さん達ね!その行為が命取りにならなければいいけれど」


東雲先生は一気に加速して男性ライダー達の前に出た。

椿ラインは、まだ緩やかなカーブが続くが椿台レストハウスを過ぎたあたりから本格的なワインディングが続くテクニックを要するポイント。

東雲先生は後続を確認しながら、椿ラインを突き進んでいく。


「ほらほらー♫頑張れ頑張れー♫おじさん達、追い抜いちゃうぞぉ♫」


CBR1000RRとZX-10Rが嫌らしく煽ってくるが、まだ椿台レストハウスまでもう少し距離がある。

どうせ勝負をかけるならテクニック勝負がしたい。


椿台の右コーナーが見えてきたタイミングで東雲先生は、後続の男性ライダー達にハザードで合図して左手を出してバトルのサインを出すと一気に加速した。

バトルのサインを確認した男性ライダー達も加速してくる。

右コーナーが迫ってきて男性ライダー達は、減速したが東雲先生は減速する気配がない。

男性ライダー達より少し遅めに減速した東雲先生は、先程リナが見た電光石火のような目にも止まらぬ速さで右コーナーを抜けていった。


「な!?速っ!」


男性ライダー達は、速すぎるコーナリングに少し遅れながら右コーナーを抜けた頃には東雲先生が運転するバリオスは遥か先にいた。

「くそ!」と男性ライダー達は大型のパワー頼りに加速するが、コーナーを抜けていく度に差をつけられて既に東雲先生の姿が完全に見失っていた。

男性ライダー達は、桁違いすぎるテクニックの差を見せつけられて戦意を失ってその場に停車した。


「な、なぁ?10年くらい前にここら辺で電光石火の如く速いコーナリングをするっていう伝説の走り屋の話を聞いたことあるよな?もしかして…あの女が…」


ZX-10Rの男性ライダーが仲間の男性ライダーに言うと、2人は今更ながらとんでもない人物に絡んでしまったと後悔した。

少しすると舞華が運転するエイプがやってきて男性ライダー達が道路脇で停車しているのに気づいて舞華が停まった。


「あれー?さっきのお兄さんじゃーん?萌歌ちゃんは、どうしたのさー?」


舞華が何気なく言った「萌歌」という名前で思い出したのかCBR1000RRのライダーが言った。


「…萌歌!?そうだ!思い出したぞ!10年前走り屋達の間で話題になってた伝説の女トリオの走り屋の1人が電光石火の萌歌だ!…なぁ?アンタの名前は?」


舞華は男性ライダー達にフルネームを教えると、「おい…マジかよ…」とその場に男性達は座り込んでしまった。

2サイクルエンジン特有の白煙をモクモクと吐き出しながら、次々と走り屋ライダーを抜き去る姿から「白煙の舞華」と異名を付けられた舞華を知らない走り屋はいない。

「電光石火の萌歌」と並んでコチラも伝説の走り屋として語り継がれている。

舞華の後ろに乗っていたリナは、改めて東雲先生や舞華が凄い人達なんだと思い知らされた。


男性ライダー達が全然ついてくる気配がないので、東雲先生がUターンして戻ってきた。


「あっ、こんなところで停まってたんですね。それに舞華さんも追いついたんですね」


東雲先生は戦意喪失してる男性ライダー達を見てスカッとしたようだった。

バリオスをリナに返すと、再びエイプに跨った。

男性ライダー達が「調子に乗ってすみませんでした…」と東雲先生に謝罪してきた。


「ライダーを見た目や乗ってるバイクだけで判断すると痛い目みますよ」


それだけ言って東雲先生は舞華を後ろに乗せながらゆっくりと走り出した。

今度は、リナが東雲先生の後ろについていく。


今のリナには、小柄なはずの東雲先生が大きく頼もしく思えた。

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