第27話 単純明快な…
東京都世田谷区用賀。
「まいかさいくる」という自転車を経営する舞華は、リナに譲る予定のKawasakiの旧車バリオスを自分の店でオーバーホールしていた。
劣化して消耗していた部品をあらかた交換してエンジンの組み直しが終わり、残りは綺麗に磨きあげるだけの段階まできていた。
あと少しでリナに納車できるというわけだ。
舞華は、この日とある人にバリオスを見せるつもりでいた。
舞華が作業の手を止めてひと休みしていると、店の扉が開く音がした。
「こんにちはー」
舞華は後ろを振り向くと、聞き覚えのありすぎるこの声の正体はリナの学校の国語教師をしていて舞華の甥っ子の嫁でもある東雲先生。
舞華はリナとバリオスの件でLINE通話で話した後に実は東雲先生にリナにバリオスを譲ることを話しており、今日はその件について話し合う為に静岡からやってきた。
「どうよ、萌歌ちゃん。久々に見たっしょ?コイツのこと」
「萌歌」とは東雲先生の下の名前だ。(※今後、舞華と二人きりのシーンでは萌歌で表示します)
舞華はバリオスのシートをポンポンと叩きながら仕上がってきたことを伝えた。
「そうですね…」と萌歌は曇った顔をしていてなんだか浮かない感じ…
続けて萌歌はこう言った。
「ちょうど10年くらい前でしたっけ?私が17歳の時に舞華さんに4ストに乗ったことはあるのかと聞いた時にそのバリオスを実家から大井川まで乗ってきたことありましたよね」
萌歌は結婚前は、静岡の大井川地区に住んでいたのでよく舞華は大井川までバイクで来ていた。
萌歌はリナにバリオスを譲るという話を舞華から聞いた時にあまり気が進まなかった。
その理由はバリオスの仕様に問題があった。
「本気でバリオスを西園寺さんに譲るつもりなんですか??とても初心者の彼女に乗りこなせるバイクではないですよ?神馬というよりじゃじゃ馬です」
萌歌も昔、このバリオスを運転させてもらったことがあり大井川の峠道を走ったことがあったが魔改造チューンされたバリオスは2ストレプリカに引けを取らないじゃじゃ馬っぷりを発揮していて、ナナハンのバイクを子供扱い出来てしまう程だった。
教師となり生徒を受け持つ身となった今では、自分の学校の生徒がこれに乗るのかと思うと心配になってくる。
しかし、自分もバイクに乗ってきた身としてはリナに乗るなと言いにくい…
「まぁ…萌歌ちゃんなら絶対そう言うと思ったし、アタシも貴重な若いバイク乗りを潰すようなことはしたくないしねぇ…。そこでちょっと細工したよ、これ見てごらんよ」
舞華はそう言ってメーターの方を指を差した。
萌歌は言われた通りに見てみると、単純明快なデチューンが施されていることに気づく。
「え?このバリオスって確か……でもこれじゃ…」
メーターを見ただけで意図を読み取った萌歌に舞華は言った。
「流石、気づいたね!萌歌ちゃんの思ってる通りだよ!まぁ、うちらがこれで乗ったら遅く感じるだろうけどリナちゃんの感覚だとこれでも十分速いはずだよ!後は、この違和感にあの子がいつ気づくかだ(笑)」
相変わらずこの人はやることが単純だと萌歌は思ったが、一応舞華なりに考えてくれてたことが嬉しかった。
残りは綺麗に磨いたら完成らしいので、せっかく来たから萌歌も一緒に手伝うことにした。
こうみえて萌歌は大井川に住んでた頃は、中学を卒業して訳あって亡くなった祖父が生前勤めていたバイク屋で働かせてもらった経験があり整備などの知識もあるのだ。
「西園寺さん、喜んでくれるといいですね」
萌歌が舞華の反対側の箇所を磨きながら言うと「その姿が見たくて頑張ってるんだよ(笑)」と舞華は笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます