第17話 休むことも大切

「たまには息抜きも大事よ」


リナは朝早く目覚めると如月教官に突然言われて本日の練習は無しになった。

茨城に来てから3週間は経っただろうか?

真夏の炎天下の中、ずっと練習していて休みという休みがなかった。

リナは口にはしなかったが、普段使わない筋肉を使ったせいで身体中筋肉痛になっていた。

しかし、ここ数週間一緒の屋根の下で過ごしている如月教官はそれを見抜いていた。

だからこそ休みの日にしたのだろう。


せっかくだから夏休みの宿題でも進めようと思ったリナは、テーブルを部屋の真ん中に持ってくると勉強を始めた。

誰もいない空間で静かに勉強した方が集中できるタイプのリナにとっては好都合の環境だ。

今日はクーラーの効いた部屋でひたすら勉強してよう…



一方で、リナの地元の沼津では東雲先生と舞華が沼津の隠れ家的な行きつけのカフェである会話をしていた。


「あの子は…たぶん先輩が昔言ってた子だよ」


舞華はアイスコーヒーをひと口飲みながら言った。

東雲先生と舞華の間に少し沈黙が続く。


夏休みに入る前にリナは舞華を訪ねて東京に行ったことがあり、帰りは舞華がタンデムして沼津まで送った訳だが、その時に舞華は幼少期の頃に迷子になったのを助けてくれたリナがバイク好きになったキッカケの女性ライダーについて聞いた。

当時6歳だったリナはよく覚えていなかったが、覚えている範囲で舞華に説明するとその情報量だけで女性ライダーについてなんとなくわかってしまった。

舞華が沼津に来た理由は、甥っ子の嫁でバイク仲間でもあった東雲先生に話す為。

大体の話を聞いた東雲先生は言った。


「西園寺さんの言ってる女性は完全に先生と一致しますね…。確かに先生から昔、幼稚園児くらいの迷子の女の子を助けたことがあると聞いたことがあります…まさか西園寺さんだったなんて…」


東雲先生が「先生」と呼ぶのは、東雲先生自身が16歳の時にお世話になったバイクの師匠だった人だ。

教習指導員をしていて、教習もその人が主に担当してくれて卒検合格後も度々アドバイスをくれたりバイクを譲ってもらったりしてた仲で、名前は佐倉奈々未。

そういえばリナが、東雲先生に師匠に頼んでもらってバイク指導をしてもらえないか聞いたところその場で黙り込んでしまったことがある。

その時はうまくはぐらかしていたが、それには理由があった。


「10年くらい経つかな?……奈々未先輩が亡くなって…」


舞華がそう言うと東雲先生は俯いてしまう。

奈々未は、既に亡くなっていたのだ。

これから免許を取るために頑張ろうとしているリナには…言えなかった…


「しばらくは私達の間だけで留めておきましょう。西園寺さんには…まだ言わないでおきます…」


そう言うと東雲先生は、アイスティーを一気に飲んだ。

6歳のリナを当時助けた女性ライダーは、間違いなく佐倉奈々未だろう。

静岡で当時、特徴的でチューニング性の高いカタナに乗っていたライダーは奈々未しかいない…

だが…もうその奈々未もこの世にはもういない…


この2人は奈々未が亡くなった原因について知ってそうな感じだったが、この場で改めて話すことはなかった…


2人は話を終えると、会計を済ませて店の外に出た。


今日もかなり暑い日だ…

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