第16話 代理教官2
リナが茨城に来てから数週間が経ち、カレンダーは8月になっていた。
今日は、如月教官も仕事で葵もバイク屋の仕事が忙しくて誰もリナの面倒を見てあげられないと思っていたところにある人物が偶然やってきた。
今日も例の私有地で練習することになっている。
「よぉーし、それじゃ始めるわよー」
ある人物というのは如月教官の高校時代からの親友でバイク仲間でもある「二階堂愛琉」だった。
かなりのホンダ党で愛車はCB750FOURを乗っている。
リナは自己紹介の際に驚いていたが愛琉は東雲先生の従姉妹で、二十歳くらいの頃はよくツーリングなどもしていたらしい。
舞華と会ったときも思ったが、茨城に来てから知り合った人達は全員東雲先生の知り合いと思うと世間の狭さを感じてしまう。
いや…もしかしたらリナも同じ世界側の人間で必然の出会いなのかもしれない。
そう思うとなんだか納得出来てしまう。
この数週間で一通りの課題項目や流れを教わったので、リナは自分の苦手な所を練習していた。
スラロームと一本橋はできるのだが、絶妙なクラッチ操作が必要になってくる坂道発進や波状路が特に苦手だった。
リナは波状路の練習をしていると、愛琉がダメな点を指摘してきた。
「リナちゃん!クラッチ操作がテキトーになってるわよ!波状路はフロントタイヤが登る瞬間にクラッチを繋ぐ!切る!繋ぐ!切る!を繰り返す!」
愛琉に言われて意識してやってみてもそううまく出来る訳がなかった。
ついこの間までエンストしまくりだったリナは、ようやくエンストせずに発進出来るようになってきたレベルだ…
しかも大型バイクに憧れているリナの為に、あえて練習車両をCB750を使っているので重量もあってパワーもあるので難しく感じる。
ただ、試験はあくまで250ccのバイクを使うし普通二輪は波状路はないので試験には関係ない。
しかし、いずれ大型を目指すリナにとっては練習しておいて損はないだろう。
そういえば休憩もせずにこんな猛暑日の中やっているが、そろそろ水分補給の休憩をしようと「リナち…」と呼びかけた所で愛琉は言うのをやめた。
波状路と坂道発進を繰り返し練習しているが、何度もうまく行かずにエンストや波状路の最中にミスして立ち乗り姿勢のまま転倒をして嫌になってきそうな感じのはずなのに、リナは汗をかきながら笑顔で楽しそうに夢中で練習していた。
リナの姿を見て、愛琉は自分や如月教官の高校時代のことを思い出していた。
愛琉達が高校生の頃は、普通二輪免許で400ccまで乗れて教習も主にMT車が主流だった。
普通二輪免許を持っていれば18歳から大型二輪教習も受けられたし、なんだかんだ一番良い時代だったかもしれない。
仮に自分がリナと同世代で、普通二輪MT免許の取得が難関になってしまった今の時代だったらあそこまで頑張れただろうか?
…おそらく途中で諦めていただろう。
愛琉は、リナの練習してる姿を見てこう思った。
「お世辞にも筋が良いとは言えないし、何ならバイクに向いてると思えない…。だけどなんだろう…リナちゃんは教えたくなるような不思議な感覚になるわね」
こう思っているのは愛琉だけではなく、桜井葵も同様のことを思っていた。
リナはハッキリ言ってバイクの運転が下手な部類だ。
飲み込みも早いとは言えないし、正直一発試験で免許取得なんて無謀とさえ思える。
それでもリナは、バイクが楽しくてしょうがなかった。
バイクが好きという気持ちに、愛琉と葵はリナの可能性を感じてしまっているのかもしれない。
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