第15話 代理教官

昨日から如月家に居候してバイクの練習をすることになったリナだが、生憎今日は如月教官が仕事が忙しいので如月教官の昔からの馴染みの知り合いに指導してもらうことになった。

それにしても、昨日食べ過ぎた如月教官の手作りの唐揚げが胃に残ってる感じがしてなんだか気持ち悪い感じがする。

リナはこう見えて胃もたれしやすく、脂っこいものを食べ過ぎると次の日は必ず胃もたれする。

だからと言って貴重な1日を無駄にする訳にはいかないので、如月教官が高校時代にバイトをしてたというバイク屋に来ていた。


「彩葉さんから話は聞いているわよ。早速、練習場に移動しましょうか」


ブラウンのセミロングヘアの女性がやってきてそう言うと、店の裏にある広い私有地へ移動した。

この女性はここのバイク屋の主人の奥さんで、名前は「桜井葵」という。

葵は、如月教官が高校時代にバイトをしてたときに訳ありでバイク屋に入ってきた人で、当時10代だった彼女は素行が悪くいわゆる不良少女と呼ばれていたらしい。

家庭環境もあまり良くなかった葵は、家出をしたときに偶然出会った如月教官の同級生の家に居候することで少しずつ他人にも心を開いていった。

不良の道から足を洗おうと思っていた時に、唯一の親友が当時所属してた暴走族の総長に親友が葵の代わりに1人で抜けたいと申し出ると見せしめで集団リンチされて殺害されてしまう。

葵は、親友が庇ってくれたおかげでリンチされることはなかったがこの事件は葵が大きく改心するキッカケになった。

復讐心も芽生えたらしいが、周りに「そんなことしても友は喜ばない」と言われて親友の分も精一杯生きると決意したらしい。

その後、現在のバイク屋に紹介でバイトとして入って如月教官の後輩として働き、如月教官が進学の為にバイトを辞めると葵はその後正社員となった。

現在は、当時店長だった義理の父の息子の洸平と結婚して夫婦でバイク屋を引き継いで経営している。


「それじゃ、今日はスラロームと一本橋の練習でもしましょうか」


葵はそう言うとCB750に乗ってまずはお手本を見せる。

如月教官には技量では劣るが、これでも大型二輪免許を一発試験で合格した実力者だ。

葵はスラロームと一本橋を華麗にこなすとリナの前でバイクを停車させる。


一通り説明を聞いたリナは、CB750に跨がるとエンジンを始動する。

ミラーの調整や安全確認は抜かりなく行うと、ギアをローに入れて発進しようとすると「あっ…(笑)」とエンストしてしまう。

どうしてもリナはクラッチ操作が苦手だった。

こういう時に機械オンチはなかなか天敵だ…


「うーん、なんでエンストするんだろう…葵さん?何かコツとかありますか?」


リナは葵に聞いてみると「難しいわね…慣れかな?(笑)」とアドバイスになってない返事が返ってきた。

スラロームや一本橋の前にクラッチ操作をひたすらやってミートポイントを体が覚えるまで基本をひたすらやった方がいいと判断した葵は、リナに覚えるまでひたすら発進とシフトチェンジを徹底的に教えることにした。

何をするにも無意識にクラッチをスムーズに操作出来なければ意味がない。


リナは私有地をひたすらエンストを繰り返しながら練習を始めた。

すんなりできる人もいればそうじゃない人も当然いる。

如月教官もここの私有地を使って練習して一発試験を受けたと言っていたが、元々センスが良かった如月教官は尋常じゃない早さで上達していったらしい。


それに比べたらリナは全然ダメかもしれないが、葵はリナは伸びると予感していた。


「あんなにエンストして嫌になりそうなはずなのにリナちゃん楽しそう。…これは期待できそうね」


練習はまだまだ始まったばかりだ。

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