バイク特訓編

第12話 お初!茨城県!

夏休み初日の午前9時過ぎ。

リナは常磐線の石岡駅に大きめのキャリーケースを持ってある人を待っていた。

ここ茨城県石岡市は、東京から約70~80km離れた水戸街道沿いにある市で常磐線の特急列車も停まることもあり都内勤めのサラリーマンも結構多いらしい。


しばらくすると時代に合わなすぎる爆音と共に、1台のホットハッチ車がやってきた。

車高は下げられていて、ホイールもツライチでポリッシュ系の深リムホイールを履いており10年以上前に流行ったスタンス仕様のHONDAのEK9シビックがリナの目の前に停まった。

深緑系に全塗装されたシビックを運転していたのは、なんと如月教官だった。


「西園寺さん、おはよう。待ったかしら?」


リナは「いえ、さっき着いたところです」と返すと普段見慣れないシビックに釘付けになっていた。

タイヤはハイグリップ系の太いタイヤが履かれていて走ったらフェンダーに干渉しそうだった。


「私の愛車よ、もう30年前以上の平成初頭の車だけどずっと好きでカスタムして乗ってるわ」


如月教官はそう言うと車から降りてトランクを開けてくれたので、リナはキャリーケースをシビックに入れた。

今日は如月教官が勤務している教習所が休みらしく、特別に練習ができるように如月教官が話を通してくれたようだ。

これから早速、教習所の方へ向かう。


リナは助手席に乗ろうとシートに座り込んだ瞬間思わず声が出た。


「えっ!?深い!てか、前が見えない(笑)」


RECARO製のフルバケットシートが運転席と助手席に取り付けられているので、シートのポジションがとても低く身体を包み込むような形状なので目線はダッシュボードの位置で前方の車が見にくそうだ…


「今時、フルバケの車なんて乗る機会ないから新鮮でしょ?(笑)」


如月教官はそう言うとシビックのエンジンを始動した。

鉄管に近いマフラー音が外にも室内にも響いた。

バイクは当然だが如月教官は車のマフラーも拘りがあるらしく、いろんなマフラーを試した末に今のマフラーが気に入ったようだ。

助手席に乗っていて音で疲れると思ったが、意外とそんなことはなく巡行で走っている時はラジオも普通に聴けるし良い感じだ。

アクセルを踏み込むと上の回転域でVTEC特有の切り替わりと共に100dbを軽く超えた音圧が弾けまくる。

石岡駅を出発してしばらく走ると赤信号で停車したあとに如月教官が言った。


「宿なんだけど、私の家に連泊するといいわ。歳の少し離れた兄がいるんだけど仕事の関係で茨城にいないから部屋はいくらでも空いてるのよ。とりあえず荷物を置きに家に行く?」


如月教官に聞かれて「いえ、このまま教習所へ行きましょう」とリナは早くバイクの練習がしたくてウズウズしていた。

如月教官は、信号が青になるとシフトを1速に入れてゆっくりと走り出した。

流石に指導員として働いているだけあってクラッチ操作やシフト操作が丁寧で無駄な動きがない。


石岡駅を出発して15分程で目的地の教習所へと着いた。

今日は休校日なので教習はやっていない。

如月教官は指導員用の駐車スペースにシビックを停めると、練習するコースへと案内してくれた。

四輪と二輪が同じコースで練習するごく一般的な教習所で特に変わっているという感じはない。


如月教官はバイクの車庫のシャッターを開けると、1台のバイクを出してきた。


「これが西園寺さんが練習するバイクよ」


リナの目の前に出されたバイクは、かつて大型二輪教習で使われていたCB750だった。


「え?これってCBナナハンですよね?250ccで練習するんじゃないんですか?」


リナは疑問に思ってそう聞くと、如月教官はクスッと笑ったあとにこう言った。


「西園寺さんが最終的に乗りたいのはナナハンのZ2なんでしょ??それならばいきなり大型で徹底的に練習した方がいいわ。敷地内は免許関係ないし、そもそも一発試験で受ける前提の練習なんだもの、このくらいの気合いと向上心がないとね!」


確かに如月教官の言う通りだとリナは思った。

自分が乗りたいのは大型バイクであって、250ccはあくまで免許の都合による通過点に過ぎない。

それにリナにとってはナナハンに乗れるなんて嬉しい限りだ。


「是非、そのCBナナハンでやらせてください!」


リナはやる気に満ち溢れていた。



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