第8話 タンデム
「それじゃ、行こうか!リナちゃん!」
舞華はそう言うと暖機運転が済んでいる350SSに跨がると、舞華の後ろにリナも乗った。
昨晩は、リナの家に一泊させてもらい偶然にも三島の方に用があった舞華はリナのことをタンデムで送ってもらえることになった。
昨日の斉藤家の食卓には、舞華の幼馴染である孝太の娘・リナが泊まると聞いた舞華の母・裕美が「え!?孝太君の娘さんなの!?」と驚いたと同時に懐かしい気持ちになったのか盛大にご馳走してくれた。
舞華の父・陸は、高齢で現在はすっかり中型以上のバイクからは足を洗って小型のKSR80で近場の移動程度でバイクを楽しんでいるようだが、昨日の夜にコンビニに缶ビールを買いに行く際にKSR80で行っていたが、家からすぐ近くのカーブを曲がる時のバンク角が明らかに凄腕の元走り屋感が出ており、素人目線のリナから見ても現役を退いたとはいえ流石は一芸を極めた人だなぁと思った。
ご馳走をお腹いっぱい食べたあとに、リナは陸から昔の走り屋事情のことやバイクに乗り始めた頃の舞華の話をしてもらった。
リナはずっとこういう話を聞いてみたいと思ってたので、ずっと聞いていられたし何より昔の走り屋達は楽しそうで自分も1980年〜90年代にバイクに乗りたかったと思った。
「本当にお世話になりました!貴重なお話も聞けて凄く楽しかったです!」
リナは舞華の両親の挨拶をすると「またおいで!」と陸と裕美は、まるで孫というよりひ孫を優しく見送るように言ってくれた。
「舞華?くれぐれもリナちゃんを怪我させないようにしっかり送迎するのよ」
母の裕美にそう言われて「はいはーい、わかってまーす」と半分適当に返事すると、舞華は350SSをゆっくりと発進させて東京ICの方へと向かった。
東京ICから東名高速に乗ると、静岡方面に向かってあとはひたすら直進するだけ。
道路は空いていて流れも順調で、これならばお昼前には沼津に着くだろう。
静岡と聞くと遠いイメージだが沼津は関東寄りなので高速を使うとわりと早い。
今日も天気が良いので、バイクで高速はなかなか気持ちが良い。
「トイレ行きたくなったら遠慮なく言ってねー」
インカム越しに舞華に言われたので「はい!」と走行風の中、リナは返事をする。
舞華から貰った新品の族ヘルにさらにオマケで貰ったインカムを取り付けたことにより走行中でも舞華と会話ができるようになった。
舞華が運転する350SSは、東名高速道路をしばらく走ると海老名SAに入っていく。
やはり東名高速と言ったら海老名SAは外せないだろう。
時間帯的にもまだ混み始める前なので、寄るなら絶好の機会だ。
リナと舞華は二輪の駐車スペースに350SSを停めるとSA内へと入っていく。
家族にお土産を買っていこうと、お土産コーナーを見ていると東京や神奈川など首都圏の有名どころの物が沢山あった。
まぁ、定番だが東京だと東京バナナや東京ミルクチーズ工場あたりだろうか?
リナは東京バナナ12個入りと、他には横濱レンガ通りを購入した。
「海老名に来たらやっぱここは外せないのよ!」
舞華はそう言うとSAの外に行くと、うまいもの横丁の方へ歩いていく。
豚串や牛串などの串焼き、唐揚げやおにぎりなどのテイクアウトコーナーの屋台が並んでおり海老名に来たら絶対に寄りたいコーナーだ。
舞華とリナは、屋台の食欲をそそられる良い香りにつられて唐揚げや串焼きなどを欲のままに買った。
二人は近くにあったテーブル席に座ると、買った串焼きを食べ始めた。
「んーー!めっちゃうまぁ…」
リナはそう言いながら豚串をあっという間に食べ終えると、続けて牛串の方を食べ始めた。
舞華の家で朝食を食べたはずなのにリナは結構大食いだったりする(笑)
舞華もリナに負けず結構食べるので、豚串と牛串を食べ終えると唐揚げを食べていた。
「唐揚げもなかなかいけるなー」
舞華はそう言うと、ひとつリナにくれた。
二人は買ったものを食べ終えると小腹も満たされたということで、再出発することにした。
舞華とリナは350SSで再び本線へと戻っていく。
海老名を過ぎると次の大きめのSAは足柄までないが、順調に進めれば意外とそう遠くはない。
舞華の350SSが、大井松田ICを過ぎてからしばらく2人は無言の状態が続いた。
ここからは静岡に入るまで、山間部の区間になる為カーブも多い。
舞華は淡々と東名高速を進んでいくと静岡県に入った。
そのあたりで舞華が話しかけてきた。
「とりあえず静岡に入ったけど、足柄SA寄る?トイレは大丈夫?」
インカム越しに聞かれたリナは「大丈夫です!空いてるうちに進みましょう」と舞華に言うと、このまま沼津まで行くことになった。
舞華は少し気になってたことがあったので、あることをリナに聞いてみた。
「リナちゃん?小さい時に乗せてもらったカタナってどんなのだったか覚えてる?あと、女性ライダーって言ってたよね?どんな感じの人?」
舞華にそう聞かれてリナは、「うーん…」と当時のことを必死で思い出していた。
まだ6歳だったので大きいバイクとスラッとした綺麗な女性だったとしか覚えてなかったが、うろ覚えながら舞華に言った。
「確か…全体的に黒でエキパイが青色というか虹色みたいな凄い色してたと思いました!あと、タンクに金色でヨシムラって入ってました!女性の容姿は背が高くて綺麗な感じの人でしたよ!これはよく覚えてます(笑)」
これを聞いて舞華は黙り込んでしまった。
黒のボディで金のヨシムラのロゴ…そしてリナのいうエキパイの色はおそらくチタン製特有の色味のことだろう。
そして女性の容姿…
舞華は、この情報だけでカタナのオーナーが誰なのか何となくわかってしまった…いや、もう確実にあの人しかいないと言った表情だった。
リナは、話を聞いているのかわからない舞華に「舞華さん?…舞華さーん、聞いてますー?」と言うと舞華は「はっ!」と我に返った。
「あー、ごめんごめん!ちょっとカタナのオーナーについて考えてたんだけど、アタシの考え過ぎだったみたい…知らないライダーだわ(笑)」
舞華は咄嗟に知らぬふりをして誤魔化すように言った。
何か隠してるのか…リナは直感的にそう思ったが、あえて追求することはなかった。
案外、自分も考え過ぎなのかもしれないと…リナはそう思うことにした。
舞華の運転する350SSは、御殿場JCTを過ぎてもう少しで沼津ICという所まで来ていた。
裾野ICを通過すると次は沼津ICだ。
「あと、もう少しで沼津ICに着くよ!」
舞華がそう言うと「なんかあっという間でしたね!」とリナはなんだかもう少しバイクに乗っていたいと思った。
そう思っているうちに沼津ICに着き、高速を降りるとリナの家がある沼津岡宮へと向かった。
ここから沼津岡宮までは、もうすぐだ。
リナが「コンビニに寄ってください」と言うと、舞華は沼津岡宮のコンビニへと入った。
「ふぅ…とーちゃーく!」
舞華とリナはバイクから降りると、ずっと海老名SAからノンストップで走りっぱなしだったので2人はヘルメットを脱ぐと身体を伸ばし始めた。
すると、聞き覚えのある声の人に突然話しかけられた。
「あれ?…西園寺さん??……え!?舞華さん!?」
リナと舞華は、声が聞こえた方に振り向くとなんとそこには東雲先生がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます