第6話 こういうところは幼少期から変わらないらしい
「あれ!?あれ!?こっちだっけ??」
リナは、東京という日本の首都で絶賛迷子中の身になっていた(笑)
品川駅に到着後に山手線に乗り換えて渋谷方面に向かわなければならないのだが、山手線の内回りと外回りがイマイチよく分からずにとりあえず山手線なら環状になっているので大丈夫だろうというノリで乗ってしまったら、あきらかに電車から見える景色が都心から離れていることに気づきとりあえず急いで電車を降りた。
そして改札を出た、リナは駅のロータリー周辺をうろちょろしていた。
「……王子駅??え?山手線ってこんな駅停まったっけ?新しくできた新駅??」
リナは極度な方向音痴だった…
幼少期の時に祖父母の家に一人で行った際も迷子になり、バイクにハマるキッカケになった女性ライダーに送ってもらったが…
今回もそんな都合よく誰かが助けてくれるだろうか。
とりあえずリナはスマホのナビを見るが東京の土地勘なんてある訳ないし、そもそも方向音痴が東京の複雑な道路をすぐに理解できるわけもなくリナは訳も分からず駅周辺を歩き回った。
真夏の炎天下の暑さと都会特有の建物の照りっ返しと昔よりはマシだが一部だけ残っているディーゼルエンジンのトラックやバスの排気ガスの熱気でまるでサウナのようだった。
リナは軽い脱水症状に陥ってしまい、東京の道端でしゃがみ込んでしまった。
「やばい…」と呟くと目の前が真っ暗になってきて意識が朦朧としてきた時だった。
ガソリンエンジンのバイクの音が微かに聞こえてきて、自分の近くで停まったあたりでリナは意識を失った…
「うっ…んんー…」
リナは目が覚めるとおでこにアイスノンを付けられて児童遊園らしきところのベンチの上で横になっていることに気づいた。
意識を失って誰かがここまで運んでくれたのだろうか?まだうまく回らない頭で考えていると突然話しかけられた。
「おっ、やっと気づいたみたいだねぇ!よっ、可愛い少女よ、体調はどうだい?ぐったりしてたのを見かけたから驚いたよ」
リナはゆっくり身体を起こすと、リナのことをここまで運んで応急処置をしてくれたのであろう20代くらいのキャミソールワンピースを着たワインレッド系の長い髪を片側で編み込んでるおさげヘアの女性がいた。
「…お姉さんが、私をここまで運んでくれたんですか?…すみません…ご迷惑をおかけしました」
リナが申し訳なさそうに謝罪すると、女性は買い物袋からペットボトルを取り出して「いいからいいから、まずはこれ飲んで」とポカリをくれた。
女性が言うには、脱水症状による軽い熱中症だろうとのこと。
もう少し症状が酷かったら病院送りになっていたであろう。
「いやー、顔色も良くなってきたし良かったよぉ。君のことをここまでおんぶしてきたんだけど、スラッとしてるから軽いかなと思ったら意外と重くてびっくりしたよー(笑)」
女性にそう言われて、少々恥ずかしくなったのかリナは少し頬が赤くなっていた。
何かスポーツでもしてたのか?と聞かれたリナは、幼少期から祖父に空手を習ってきたと言うと女性は筋肉質のリナの体型に納得した感じ。
女性から王子の方に何か用事でもあったのか?と聞かれたのでリナは状況を説明した。
「あるお店に用があって静岡から来たんですけど、品川から電車を乗り換えて渋谷に行くつもりがここに来てしまって…確かに山手線に乗り換えたはずなんですが…王子って新駅ですか?」
リナがめちゃくちゃ真面目な顔で聞いてきたのが、おかしかったのか女性はその場で大笑いしてしまった。
リナは大笑いしている女性を見て、なんか自分おかしなことでも言ったかな?と思った。
「ハハハハ!……はぁはぁ、ごめんごめん(笑)、君が乗ったのは山手線じゃないよ、山手線と並走してる京浜東北線ってやつさ。都内の路線に慣れてない人がよくやらかすミスだよ」
リナの頭の上には???のマークが浮かんでいて、本人はイマイチよくわかっていない様子。
山手線と京浜東北線は田端駅〜品川駅間が並走している為、初見の人や都内の路線に慣れてない人は違いがよくわからないことが多い。
そうは言っても京浜東北線は水色、山手線は緑と色が違うので相当鈍感な人でなければ普通はわかるものだが、そこは流石に方向音痴のリナである(笑)
女性は、リナが行きたい目的地を聞いてきたのでスマホのマップの画面を女性に見せると一瞬だけ女性の表情が「あっ」と固まった。
その後、すぐにクスッと微笑むとこう言った。
「そのお店ならアタシ知ってるよ!せっかくだからお姉さんが連れて行ってあげようぞ(笑)」
女性は戦国武将的な言い方でそう言うと児童遊園の外に停めてあったバイクの方へ向かった。
「え!?このバイクって350SSですか??」
リナは女性の愛車を見て今日一驚愕した。
なんと目の前にKAWASAKIの2ストの名車350SSが停まっている。
綺麗に塗り直されたタンクやカバーは、水色にヌルテカに輝いているし錆という錆もない。
とてつもなく極上車だ!
女性はキック始動を慣れた感じで一発でエンジンをかけると、暖機を始めた。
「350SSを知ってるなんて若いのにいい趣味してるねぇ、バイク好きなの??この時代にコイツのケツに乗れるなんて超レアだよん(笑)」
女性にそう言われたが、若いって言われてもあなたも私と歳そんな変わらないですよね?とリナは内心は思ったが、確かにこんなバイクに乗れるなんて機会なかなかないだろうし、ちょっとワクワクしている。
女性は万が一の時の為に持っている、予備の半ヘルメットをリナに貸してくれた。
バイクに掛けていたジャケットを女性は着ると、長年愛用してそうなヴィンテージ感のある旧型の白のフルフェイスを被ってバイクに跨った。
リナも貸してもらった半ヘルメットを被ると、女性の後ろに乗った。
初めて乗る2ストのバイク、ワンオフ製だと思われる集合チャンバーのアイドリング音がなんだか新鮮だった。
「それじゃ出発するよぉ、君の座ってる後ろあたりにバーがあるでしょ?そこを両手で持って身体を支えてねー」
女性がそう言うと、リナは両手で後ろのバーを掴んだ。
これはタンデムバーと呼ばれているもので、二人乗りする際に後ろの人がバーを握って身体を支える為にあるもので、旧型のネイキッドバイクには大体備わっているものが多い。
女性はサイドスタンドを払うと、クラッチを切ってギアをローに入れるとスロットルを2回煽って軽くエンジンを回した。
女性は慣れた手つきでスムーズにクラッチを繋ぐと350SS…通称マッハを明治通りに向かって発進させた。
ギアを2速に上げると女性は回転を上げて350SSを加速させていく。
パワーバンドに入った瞬間にカーーン!と2スト特有の甲高いエキゾーストと相当チューニングされているのか350ccとは思えない、大型顔負けのナナハンキラーのワードを思い出させるような加速っぷりに後ろに乗ってるリナは「はやああ!!」と大声で叫びながら目をキラキラさせていた。
「どうよー、アタシのマッハの音とパワー!最高でしょー(笑)」
女性はそう言うと華麗に車を次々と追い抜いて明治通りを池袋方面に進んでいく。
池袋の駅の方に来ると東京らしい景色に戻ってきた。
池袋駅東口近くの信号に停まると、リナは初めてきた池袋の街を見渡していた。
「あっ、あっちがサンシャイン通りですか?」
リナが女性に聞くと「そうそう!遊ぶところいっぱいあるよん(笑)」と今すぐ行きたくなるような言い方をしてきた(笑)
だけど、今回の目的は別にあるのでパスだ。
「この明治通りは新宿や渋谷の方を通ってるんだよ、せっかくだから渋谷のスクランブル交差点でも通ってあげるよー」
女性がそう言うと「え!?ほんとですか!」と1度は憧れる渋谷のスクランブル交差点を、まさか旧車の350SSで通れるなんて夢にも思わなかっただろう。
こうして都内をバイクに乗って走れてるだけでもリナにとってはかなりのご褒美だ。
女性の350SSは池袋を過ぎると、早稲田を過ぎて新宿区へと入った。
こうして車やバイクで都内を移動していると思うが、都内がいかに地区が密集しているかがよくわかる。
新宿あたりまで来るとビルなどが増えてきて、350SSの音が反響して心地良いものだ。
リナ的に新宿はやはり大人の雰囲気の中に、なんだか独特の怖い感じが同居してる印象だ。
1番強いイメージは歌舞伎町だろうか?
夜になると繁華街を飲み歩く人やカタギと思えない裏社会の方々が行き交う街といったイメージだ。
新宿を過ぎて代々木までくるとオフィスビルやアパートやマンションといった、副都心で働いてる人達の住居エリアといった感じに変わる。
ちょっと移動するだけでガラリと雰囲気を変える東京は、電車に乗っていては気づかないかもしれない…
ある意味、バイクの特権だろうか。
女性が運転する350SSは、代々木を過ぎて原宿の方まで来た。
周りの歩行者の年齢層が一気に10代〜20代前半が増えてきたのがわかる。
流石は若者の街…原宿系ファッションに身を包んだ若い女性がいたりストリート系のファッションの人がいたりと代々木とも全然違う。
「君の年頃だと原宿とか渋谷はパラダイスみたいな地なんじゃないのー?(笑)ここに来てる子達の大半は地方の子だったりするんだよねぇ」
信号待ちしてるときに女性にそう言われたが、確かに原宿は一度来てみたかった。
若者向けのお店が沢山あって、みんなが憧れるのはわかるかも(笑)
でも、東京には住みたいとはリナは思わなかった…
「原宿の隣が渋谷でしたよね?」
リナが女性に聞くと「もうすぐだよ(笑)」と女性は看板に指をさした。
信号が青になると350SSを発進させた女性は、渋谷駅の方に向かっていく。
宮益坂下の信号を道玄坂の方に右折すると、タイミング良くスクランブル交差点が赤信号となり偶然にも先頭で信号待ちすることになり目の前には交差点を四方八方に行き来する人波で溢れかえっている。
「おぉ!生のスクランブル交差点だぁ!人の数が凄い(笑)」
リナはただただテンションが上がっていた。
本来、乗り換えを間違えてなければ電車でこの地に降り立つはずだったが、まさかの旧車のバイクでここに来ることができるとは思わなかった。
方向音痴なのも、時には良いことがあるものだ(笑)
「ここは毎度激混みだから普段は絶対通らないけどねー(笑)、今日は特別だよぉ」
世田谷ナンバーを付けているので、女性は日常から都内を走ってるんだろう。
スマホのナビを使ってないし、何より都内の運転に慣れている。
信号が青になると道玄坂の方に向かって走っていくと、目の前に某有名なファッション系のテナントビルの横を通り抜けた。
普段、静岡に暮らすリナからしたら都心の中心部は全てが夢のような世界でこうしてバイクの後ろに乗ってその土地を走ってるだけで楽しかった。
渋谷の道玄坂をしばらく進むと国道246号とぶつかるので、国道246号を用賀の方面に向かっていく。
池尻大橋、三軒茶屋と都心から離れてくると裕福な人達が住んでそうな生活圏の雰囲気になってくる。
環七通りとぶつかる交差点を直進してしばらく走ると駒沢大学の近くを過ぎて、目的地の世田谷区の用賀まで来た。
女性は国道246号の用賀一丁目の信号を右折すると、用賀駅の方に向かって走っていく。
東急田園都市線が通る用賀駅周辺は日用品等が買い出しできるお店が沢山あり、住宅やアパートも密集していて車やバイクがなくても徒歩や自転車さえあれば生活できる住みやすそうな雰囲気の場所で、都心から少し離れているとはいえ流石は23区の世田谷だ。
用賀駅前を通過してしばらく走ると、シャッターが閉まっている自転車屋が出てきて店の目の前に女性はバイクを停めた。
店の看板には「まいかさいくる」とネタ要素も追求してるのか平仮名でポップ体で書かれている…
「はーい、とーちゃーく!」
リナは店が閉まっていて、定休日に来てしまったと内心焦ってしまった。
せっかく東京まで来たのに店の人に話を聞けずに終わるのかと半ば絶望しそうになっていると「ちょっと開けてくるねー」と女性は店のシャッターの鍵を開けてシャッターを上げ始めた。
その行動にリナは、何がどうなってるのか理解出来ずに女性に話しかけた。
「え??お姉さん、これはどういうことですか??」
リナは少し混乱しながら聞くと、女性はリナの方を振り返って言った。
「そういえば、自己紹介してなかったよね(笑)…改めまして、ワタクシこの店の店長をしてる斉藤舞華と申します」
舞華はそう言いながら自分の名刺をリナに手渡した。
リナはようやく状況を理解したようで、ナビも使わずにここまでスムーズにバイクを運転してこれた意味はそういうことだった。
まさか、偶然にも目的地の店長に道中で会えるなんてリナは何か持ってるのかもしれない(笑)
「そ、それじゃあ!貴女が!?」
リナは驚きながらそう聞くと「立ち話も何だし、とりあえず中に入ってよ(笑)」と舞華に店内に入るように言われた。
いろいろあったが、とりあえずこれで話が聞けそうだ…
そういえば父が「舞華の姿を見たら驚くぞ?」と言っていたが、その意味がようやくわかった…
(この人、見た目若すぎぃぃぃ…)
リナは心の中でそう叫ぶのであった…
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