02.絡み合わない糸

01


 千尋先輩、いや、千尋君の家に行ったあの日以来、落ち込んでいた気持ちが少し楽になったことに気付く。

 勇志のことを思うとまだチクリと胸は痛むけど、千尋君の笑顔を思い出すとなんだかポカポカする。……私って意外と単純なのか?

 今日だってまた四人で遊ぶことになって何だか妙にソワソワしてるし、私服にも気合入れてる。リップも新しいの買ってしまった。


 二度目の川上家。

 呼び鈴を鳴らすと二階のベランダから千尋君が顔をのぞかせ、入って来いよと言った。今日はちゃんと約束をしているから機嫌は悪くない。


「お邪魔します」


 新築の木のにおいを嗅いで、ああまたここに来てしまったと実感する。


「由梨ちゃん、久しぶり。どうぞ入って」


 千尋君は自室のドアを開けて微笑んだ。

 ……めちゃくちゃ可愛い。


「私たちにはないんですかー」


 杏たちはすでにソファでくつろぎながらわざとらしく不服そうにしている。


「お前らはいつも来てるだろ。来るなって言っても勝手に来るんだから」

「そんな事言っていつも入れてくれるじゃないですか。本当は来て欲しいくせにー」

「んなわけないだろ。あ、由梨ちゃんこっち座って」


 二人掛けのソファを杏カップルが占領したため床を指さす。


「これクッション。床だと固いから使って」


 グレーのクッションを渡しながら千尋君はそのまま私の隣に座った。

「……あ、ありがとうございます」

 肩と肩が触れ合いそうになる距離になんだかドキドキする。


「んで、今日は映画観賞って聞いたけど?」

 千尋君はリモコンを取りテレビをつけ、動画配信サイトを開きながら杏に聞く。


「そうそう! ネ〇フリに昔の映画の無料配信が始まっててね。興味ある映画があったから四人で観ようと思って」

「俺は杏と二人っきりでも良かったんだけどね」


 学先輩は他人がいるのお構いなしに杏の肩に腕を回し自分に引き寄せながら言った。

 ……このバカップルは。


「も~! 学君ってば恥ずかしいからやめてよ」


 顔を赤くしながら杏が慌ててる。全然嫌そうじゃないけど。やめてよ、言いながらけして離れようとしてないけど!


「これこれ、タ〇タニック! 昔結構流行ったみたいだよ。知ってる?」


 タ〇タニック。もちろん名前は知ってるけど実際観たことはない。有名なあの船の上でのシーンが頭に残ってるだけで。


「ってか恋愛映画かよ」


 千尋君がげんなりした顔をしている。恋愛映画苦手なのかな。


「まぁまぁそんなこと言わないでせっかく集まったんだから観よう」


 杏が千尋君の持っていたリモコンを奪い取って目的のページまで進め始めた。はぁとため息をつく千尋君のことなんて気にする様子もない。



 カーテンを閉め切って、電気を消して、それっぽい空気を作って、四人での映画鑑賞が始まった。

 冒頭のシーンが終わり、ちらりと横を見ると千尋君は画面に釘付けになっていた。どうやら物語にのめり込んでいるみたい。ふふ、あんなに恋愛映画をみることに抵抗してたのに単純で可愛い。さっきから一つ上の先輩に可愛い連呼してるけどそう思ってしまったんだから仕方ない。

 千尋君がしっかりと映画に集中していたことに安心して、私は視線を画面に移し、同じくこの超大作の世界に入り込むことにした。

 

 物語はどんどん進んでいく。

 四人は誰も言葉を交わさない。

 そんな中画面の男女二人のキスシーンが始まった。


 ……う。なんか気まずい。


 私がそう思うのそっちぬけで登場人物たちはそれを続けた。

 画面を見るのが少し恥ずかしくなって視線を横にずらすと、


「!!!!!」


 千尋君と目が合う。



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キラキラ光る万華鏡 〜多角関係物語〜 すず @suzuzu21

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