07.
地獄のような遠征が終わり、冬休みも終盤に近づいたある日、私は杏に誘われて外に出た。
昨日は雪が降ったのか一面真っ白の銀世界が広がっていた。
眩しい……。
この数日間何もする気が起きなくて部活も休んで部屋に篭っていたから、太陽の光も冷たい風もなんだか久しぶりに感じた。
いつもの待ち合わせ場所の公園にはまだ杏の姿は見えなかった。とりあえず公園前の柵の上に腰掛け足をぶらぶらさせる。
あの日。
結局私は泣きながら謝ってきた愛子も、杏も許した。二人が悪いわけではないし(いや悪いんだけどね)、そんな事で友情を終わらせたくなかったから。
それでも勇志に会うのは辛くて、試合を応援するのもままならなかった。そんな私を知ってか知らずか勇志が何度もこちらを見てくるもんだから、好きじゃないならこっち見ないでよ、なんてネガティヴ思考満載で自分で自分に呆れた。
「あーー……」
油断するとまだ涙が出てくる。いかんいかんと目を擦ると心配そうに立っている杏の姿を見つけた。
「久しぶり。元気、…なわけないよね」
「な、わけないね…」
「…………」
「…………」
気まずい。
とてつもなく気まずい。
手持ち無沙汰に近くにある雪の玉を足で蹴った。玉は転がる事なくクシャリと割れた。
「…あ、えっと……。今日はね、由梨に紹介したい人がいるんだ」
本当はこのタイミングじゃないんだろうけど、と続ける杏。
「…もしかして彼氏でも出来たとか?」
「!」
冗談で言ったつもりなのに杏の様子で悟った。杏に彼氏が、か。
「あのね! 本当にね、これは前からこの日にしようと予定してたから。由梨がこんな事になってどうしようかって……」
「あーーー! ぶり返さなくていいから!」
「そうだよね。また私……ごめん」
しおらしくしている杏。らしくない杏。
杏は小学校の時からずっと仲良しで、素直な性格で誰にでもフラットで接する為か、男女共に好かれる人気者だった。それでもクラスで影の薄い部類に入りそうな私に対していつも一番に考えてくれて、頼もしい大好きな親友なのだ。
だからまずはこう言ってあげるべきだ。
「杏、おめでとう」
「ーーーーーっ。ゆ〜り〜」
「重いー」
抱きつく杏の頭をよしよし撫でて、これで本当の仲直り。
しばらくの間、杏がありがとう! とかごめんねとかを繰り返して、その度にもう分かったからっていうやり取りが続いていたら後ろからあのーって声が飛び込んできた。
「そろそろ俺、出てきてもいいかな?」
杏がパッと顔を上げた。
「あ、学君!」
杏の隣に並んだニコニコ爽やかな人。
「え」
私は思わず声を上げた。だって、そこに立っていたのは杉本学先輩だったから。
学先輩は私達の一つ上の先輩で、文化祭あるあるのミスターコンテスト優勝したいわゆるイケメンさんだ。スラリと伸びた背と程よくついた筋肉、切り長の目、美形純日本人の典型だ。
確かに杏がかっこいい、かっこいいと騒いでいたのは知っていたけど、こやついつの間に……。
「由梨ちゃんでしょ。杏からよく話は聞いてます。俺とも仲良くしてね」
穏やかな聞きやすい声に思わずウットリ。
……じゃない。人の彼氏だ。
「付き合い始めたのは今年入ってすぐだったんだけど、なかなか言うタイミング見つけられなくてごめんね」
いやいや、いいよと杏に言いながら学先輩の方を向いてペコリとお辞儀をした。
「は、初めまして。
「ふふっ。杏が言う通り面白い子だね」
「へ?」
面白い子って何? 横目で杏を見ても、すでに学先輩大好きオーラでこっちを見ていない。まぁあなたが幸せならいいんですけどね。
「それじゃあそろそろ行こうか?」
「これからデートですか? では私はここで……」
「あ、ちょっと」
帰ろうとする私の肩を掴む杏。
「何?」
「いやいやあんたも来るの!」
「はい?」
ここからならこっちから行ったほうが近いか、なんて言いながら歩き始める二人。その後を慌てて追う。
「ねぇ。ど、どこに行くの? デートなら邪魔でしょ?」
杏はくるりと後ろを振り返り肩を組む。
「デートじゃないし、邪魔でもない」
「うん。杏の言う通り」
「じゃあどこに?」
「俺の親友の家だよ」
親友って、誰ですか????
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