06.


 学達が帰った後。

 夕食も食べずにギターを弾き続けた。だってギターを弾いている時だけが嫌な事を忘れられたから。



 ふと窓の外を見る。


 カーテン越しに照らされる光。それは何度か点滅して、そして消える。


 俺はカーテンを光の正体を見やる。

 熊田章義クマダアキヨシ俺の幼馴染だ。アキと俺は呼んでいる。

 アキはバレーの日本U20の代表に選ばれていて、春からは大学に通いながらプロバレー選手として活躍する予定だ。スラリとした高い身長に、サラッサラの黒髪。日本人離れした整った顔。……悔しいが勝てるところが一つも見当たらない。

 学にしろ、アキにしろ、俺の周りの男はどうもこうイケメンが揃いがちだ。


「入れよ」





「さみぃ」

 アキは部屋に入ってきて開口一番そう言いながらファンヒーターの前を陣取る。

「今日も練習か? そういえば雑誌見たぞ。お前もうげーのーじんみたいじゃん?」

「……俺はバレーしてるだけだ」


……くっそカッコいい。俺もやってみる? ちょっとクールな男演じてみる?  それとも学みたいにニコニコ笑って穏やかな大人の男にしてみる?


「また、フラれたって?」

「う……」


 そう。また、だ。いわゆる重い男代表の俺は、彼女ができても同じ理由で振られる。


「でも、俺はお前が羨ましいよ」

「ケッ、嫌味か!」


 アキは真面目な顔をしているし、冗談は言わない奴だから、なぜそんな事を言ったのか分からない。


「俺がお前になりたいよ」


 俺がそう言うと寂しそうに笑うアキを見て不思議に思ったがワケは聞かなかった。


「ほら、いいぞ。いつものアレ、聴く準備してきた」


 ホントかっこいい奴。俺が失恋した時は、忙しいのに俺の家に来て、何を言うわけでもなくただそばにいてくれた。


だから俺はいくつもの失恋を乗り越えてきたんだ。



『〜〜〜〜〜♪』


 ギターの音が響き渡る。

 俺の歌声がそれに乗る。


 歌詞なんてあったもんじゃない。


 気付けば涙が流れていて、それと同時にメロディーが溢れてくる。


『〜〜〜〜〜♪』


「お前の泣き顔はアレだけど、やっぱりお前の歌はいいな」








 はぁ、スッキリした。

 新しい恋、どこかに落ちてないかな。


 次の恋は絶対に重い男にならない。

 重いを理由に断られないように、慎重に、考えながら、始めたい。




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