05.


 付き合っている女に振られた。

 そいつの事が大好きで、なんでもしてやれた。

 行きたいところがあれば連れて行った。

 欲しいものがあれば買ってあげた。

 ワガママだって愛おしくて、笑った顔が可愛くて、好きで好きで好きで、


 ーーだから振られた。


「へぇー、『千尋君、重い』って? そりゃ確かにお前の愛重すぎるでしょ」


 親友の杉本学スギモトマナブは可笑しそうに笑っている。


「千尋先輩かわいそう。大丈夫?」


 学に最近出来た彼女の高橋杏タカハシアンズは俺の部屋のクッションを抱えながら心配そうに見つめてる。


 チッ。何故付き合いたてのカップルが振られたばかりの俺の部屋にいるんだよ!


「そりゃあ、親友が振られたって言うんだからさ」

「こうしてお見舞い(?)にきてあげたんですよ」


 何故言葉に出してないのに俺が言いたいことが分かるのか。


「お前は顔に出やすい」

「ねー」


 このバカップルが!!!

 ああ、こんな日は得意のギターをジャカジャカ弾いてストレス発散したいのに。


「それでね。学君。私の友達の話なんだけど〜」


 杏が学の隣に座り腕を触りながら話し始めた。……腕を触る必要があるか?


「ああ、由梨ちゃんだっけ?」


 悪い気はしない学も杏の長い髪の毛をクルクルと触り始める。


「おいおい! お見舞い(?)はそっちのけで別の話か! イチャイチャか!」

「じゃあ千尋君も聞いてよ〜」

「無理無理、千尋には恋愛は向かない。コイツ重い男だしな」


 ムッ。いやいやいや、恋愛マスターとは俺の事よ。


「その由梨ちゃん? が、どうかしたのか?」

 学の言葉は無視しつつ、杏に問いかける。

「どーーーーー見ても両思いの二人なんだけどね。見てるこっちがもどかしくてさ〜、どうにかしてあげたいんだよね」

「なんだ、両思いならほっといていいんじゃね?」


 こっちは失恋したばかりなのに幸せな話かよ、っていかんいかん、ちょっと卑屈になり過ぎた。


「いや、アレは何もしなければ多分何も起こらずそのまま終わるの確実!」

「なんで両思いだって分かるの? お互いの気持ち本人に聞いたの?」


 物腰の柔らかい学が今度は頭を撫でながら杏に聞くと、ちょっと顔を赤らめた杏。

 

 学よ……、親友の前で恥ずかしくはないのか。ジトっと学を見ても、当の本人はすかして笑っているだけだ。


「相手の子は知らない。でも、由梨の事チラチラ見てるし、私には笑わないのに由梨と話してる時はめちゃくちゃ笑顔だし、心開いてるのも女子では由梨だけだと思う」

「ふーん。じゃあさ、とりあえず杏が由梨ちゃんの好きな人に好きな人いるか聞いてみたら?」

「あ、それいいかもー。まぁ本音話してくれるとは限らないけど、今度遠征あるしその時とかに聞いてみようかな」

「いやいやいや! 俺は他人が入らない方が上手くいくと思うけど?」

「早速愛子に相談して計画練ろう!」


 ……聞いてない。

 俺の話を誰も聞いてくれない。


 その後も学と杏は由梨ちゃんの為に色んな作戦を立てていて、俺の意見は一つも通らなかった。


 チクショー。

 部屋の片隅に置いていたギターを持ち、チューニングを始める。最近瑠璃(元カノ)に夢中でギター弾いてなかったもんな。


 そういえば瑠璃、ギターを弾いて歌ってる千尋くんが好きって言ってたっけ。


 ジャン。と弦を弾くと、久しぶりの心地よい音が身体全体に染みる。ぶるぶると小刻みに震える。


 懐かしーーーーーー!



「千尋先輩ギター弾けるんだぁ」

「あ、だめだよ。千尋のギター聴いたら」

「え、なんで〜」


 そんなバカップルのやり取りを聞きながらギターの手入れを続けた。


 やっぱり俺にはコイツしかいないのか。



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