第3話 絶対やってるだろう【置きトラブル】

 はい、第三回目にもかかわらず、あらすじではなく【置きトラブル】についてお話します。

 おそらく皆さんやっちゃってることです。


 そもそも置きトラブルとはなんぞや?


 それは「今からこういうトラブルきますよ」って書いていることです。


 やっているわけないと思うでしょう?

 いや、やっちゃってるんです。

 もれなくやっていると思っていい。


 だって本人は自覚なしだから【置き】【トラブル】なんです。


 まず、トラブルとはなんぞや? なのですが、主人公が困る出来事です。

 皆さまも必死で書いていると思いますが、そのトラブル見えてます。

 大事なことなので繰り返します。


 そのトラブル見えてます。


 これは、わたしが添削のプロの先生に数回○万円という身銭を切って覚えたことなので、初心者さんや中間選考が突破できないという方はもれなくやっていると思ってください。


 言葉で説明してもわからないと思いますので、実際に書いた文章を2パターン載せます。

 それを読んでいただければ言わんとすることが見えてくるかもしれません。

 ちなみに今でもやってしまうので、「ここにトラブル入れた」と意識しているところは、書き上げても3~4回はまじない唱えて読み返します。


「俯瞰しろ、わたしは読者だ……」って。


 では、いきましょう。

 引っかかりに気づくよう、面倒ですがよく読んでくださいね。頑張って!



【改稿前】


 そう考えたとき、カサリと落ち葉を踏む音がした。

 ハッと庭を見ると白毛の中型犬が茂みから顔を出してこちらを伺っていた。立派な胸飾りがついており、どこかの部屋で飼われている犬だとわかった。


「な、菜月さま、危のうございます。お下がりになってくださいませ……!」

「大丈夫よ。きっと迷ってしまったんだわ」


 菜月は庭に降りてしゃがんだ。

 チッチッチと舌を鳴らし手招きすると、犬しばらく様子を伺っていたが菜月のもとへ歩いてきた。前足を庇うようにして歩行している。


「怪我しているのね。可哀想に」


 キュウーンと鳴く声はとても痛々しい。


「菜月さま。手負いの動物は危険にございます」

「でも、ほっとけないわ。どこかのお部屋で飼われている犬よ。人なつっこいもの」

「ですが、噛まれでもしたら……」


 菜月は黒曜石のような瞳に語りかけた。


「わたしは、あなたを助けたい。だから、少しだけ信用してくれないかしら」


 犬はじっと菜月を見つめている。

 賢そうな犬だ。菜月は引きずっていた右前足を指しながら言う。


「怪我のようすを見たいから触るわね。ほおっておけば膿んでしまうかもしれない」


 そう言って、そっと前足の関節部分を持ち上げ、足を手のひらに置いた。

 犬は大人しくしている。

 原因はすぐにわかった。指と指のあいだに細い小枝が刺さっている。肉球のあいだに土が付着しており、おそらく地面を掘っているときに埋まっていた小枝が刺さったのだろう。

 菜月はそれをつまんで抜いた。犬はピクリと身を震わせたが吠えない。


「ほら抜けた。よく我慢したわね。偉いわ」


 枝を見せると、犬は納得したとばかりに伏せをして傷跡を舐め始めた。

 深い傷でなくてよかったとほっと安堵の息を吐いた。

 けれど、傷を負ったところが汚れているのが気になる。部屋まで運べば水で洗ってやれる。

 犬の頭をなでてから、「抱っこするから我慢しててね」と告げて腹に腕を回して抱き上げた。


「なっ、菜月さま!?」

「香、先に部屋へ行って水をくんできてちょうだい。土汚れのままではよくないわ。手当が終われば入江さまにお伝えして飼い主をさがしていただきましょう。きっと、心配なさっておいでだわ」



【改稿後】



 そう考えたとき、カサリと落ち葉を踏む音がした。

 ハッと庭を見ると黒毛の中型犬が茂みから顔を出してこちらを伺っていた。

 距離にして数メートル。飛びかかってくればひとたまりもない。


「菜月さま、お下がりになってくださいませ……!」


 香が菜月の前へ出る。

 恐怖に息を呑むが、よく見ると立派な胸飾りがついている。どこかの部屋で飼われている犬なのだ。

 菜月は刺激しないようにそうっと立ち上がり、縁側に膝を突いた。

 飛びかかってくる様子はない。チッチッチと舌を鳴らしてみる。

 犬はしばらく様子を伺っていたが菜月のもとへ歩いてきた。前足を庇うようにして歩行している。

 怪我をして動けなかったのだわ……。

 そばまできた犬は座り、キュウーンと鳴いた。声はとても痛々しい。


「な、菜月さま。手負いの動物は危険にございます……!」

「見て。胸飾りがついているわ。人に飼われている犬よ。大きな声を出して驚かせないようにしましょう」

「ですが、噛まれでもしたら……」


 菜月は黒曜石のような瞳に語りかけた。


「必ず飼い主のもとへ連れて行くわ。だから、少しだけ信用して……?」


 犬はじっと菜月を見つめている。 

 賢そうな犬だ。菜月は引きずっていた右前足を指しながらもう一度言う。


「怪我のようすを見させてくれる? ほおっておけば膿んでしまうかもしれない」


 そう言って、庭石に足を下ろし、犬と視線を合わせた。

 そっと鼻先に手の甲を出すと、クンクンと匂いを嗅ぐ。そのまま口元からゆっくりと撫でた。犬は唸ることもなく菜月の手を受け入れている。しばらく撫でてから右足の関節部分を持ち上げ、足を手のひらに置いた。

 犬は大人しくしている。

 怪我の原因はすぐにわかった。指と指のあいだに細い小枝が刺さっている。肉球のあいだに土が付着しており、おそらく地面を掘っているときに埋まっていた小枝が刺さったのだろうと推測できた。

 菜月はそれをつまんで抜いた。犬はピクリと身を震わせたが吠えない。


「よく我慢したわね。いい子」


 深い傷でなくてよかったとほっと安堵の息を吐いた。

 傷を洗えば壊死することはない


「香。水をくんできてくれる?」




 はい。わかりましたか?

 改稿前、ぜんっぶ行動を説明しちゃってますよね?

 平たく言えばこうです。


 犬が居る。あ、胸飾り付いてるー。どっかの犬だー。

(怖さを感じることもなく)

 さくっとチッチッチて呼んで、犬、スムーズに来ちゃって、あら痛そう。キュウーンて鳴いてるー。


(一応「あぶない」言うとこか。あぶない場面やもんな)


「手負いの獣はあぶないですよー」


 主人公、忠告を聞くことなく犬に語りかけ始める。

 +

 賢い犬、爆速認定。

 +

 怪我がわかったので「抜くよ-」って急に抜いちゃう。


(空気読まねぇ聞かねぇナンパかよ)


(しかも、よくできた犬なので)「……まぁ吠えんといたろか」


 主人公「えらいわ~」


 しかも枝見せたら、なぜか犬納得してる。


(言語が違うんだよ。まず信用できる行動しろよ、主人公してねぇよ)


 そんで怖がることもなく、怪我した犬、気安く抱っこ。


「水汲んできて。心配してるから、飼い主探してもらお?☆」



 今読んでも「爆死してぇ……」と悶絶します。

 冷静に考えてください。

 いきなり目の前に中型犬がリードなしでいるんですよ? しかも、至近距離でこっち見てんですよ?

 いや、怖いでしょ。普通に怖い。

 それを怖がりもせず、説明して速攻行動。

 なんも面白くねぇ。

 こんな緊迫感のないトラブル、トラブルと名付けるのもおこがましい。


 これを【置きトラブル】と呼びます。


 文章で前もって説明しているので読者さんからみたら、トラブル丸見えなんですよ。

 トラブルというのは、いきなり横から「わっ!」と出てくるからトラブルなんです。


「これからどうるのかな? この子大丈夫かな?」


 そう思わせないと。

 目の前に置いといて「わっ!」としても、「ああ、うん……」って薄っすいリアクションしか返ってこないです。


 ちなみに、いつも初稿はこれくらいの酷さです……。だから読み返さない小説は絶対にアップできんのです……。

 アップしてもストーリーが落ち着いたころに読み返すと、


「……これ、プロットなぞってるだけや。この子、こんな性格ちゃう」


 となります。

 あと、やたら、物わかりが良くてサクッと話を進ませてしまっていたりとか。

 この小説も10話くらいアップを終えて、アカーン! となり一度引っ込めて全部直しました。


 初夜の話があるのですが、やはり同じミスをやらかしていました。

 女の子が初めてエッチするかも? なところで、しかも、男性に覆い被さられている。

 テンパりませんか?


(昔すぎますが、作者も初回のみ限定で覚えています)


 いくら時代劇でも「お情けを……」とかスムーズに言えます?


 言わんわ。言えたら、それ玄人や。


「初めてだから、優しくしてね……?」くらいに嘘くさい。


 これを踏まえて、よく読み返してください。

 ギャグ要素強めだと、読者がネタを消化する暇もなく、オチとか突っ込んでます。

 説明しすぎも問題ですが、はしょるのも置いてきぼりになるので、読者さんは読まなくなります。

 必ずPVが落ちているので、その話を徹底的に直してください。

 そして、違和感を大切にしてください。


「なんか上手く言えないけど違う気がする……」


 それは、ほぼ100%正解です。

 そして、違うと感じた前のエピソードから、その話が一区切りされるところまで通しで直してください。

 1話づつじゃなくて、【通しで】です。

 直したら、翌日もう一度読み返してください。まだ、微調整できるはずです。

 数時間か半日経過して、読み返しに引っかかりがなくなれば、その文章は使える文章です。


 初めの時期は、できるなら紙に印刷して読むことを全力で勧めます。

 アナログのすごさを体験できます。

 1文字の違和感さえ気づきます。

 誤字も見つかります。

 例え3回読み直していても誤字ヤツは存在します。


 会話の違和感は音読してみてください。

 教えられて始めましたが、確かに声に出すと「あ、これ説明だわ」と気づけます。


 ただ、ひとり芝居になるので背後と周囲には重々気を払ってください。


 わたしは「上様……」って切なく台詞を読んでいて、

 飼い犬に「こいつ……なにして……?」って顔で見つめられていました。

 犬でも恥ずかしかったです。

 てか、聞かせてごめんな。びっくりしたよな。ごめんよ、妙な飼い主で。


【置きトラブル】にはご注意を。


 説明に使った小説はこちらです。どうぞよろしくお願いいたします。


【黄泉がえりの姫と青い将軍~青鬼の側室は死んで蘇った娘】


 https://kakuyomu.jp/works/16817330652824354626



 小説も創作論も頑張りますので、どちらも★とフォローをお願いいたします。



 ギャグ要素の時代劇小説も書いています。中間選考突破した作品です。

 金欠の大奥をBL本を売って立て直そうという話なので、同系統の作品をお書きの方の参考になるかもしれません。


【大奥男色御伽草子 高藤あかねの胸算用~男色本で大奥の財政を立て直します】


 https://kakuyomu.jp/works/16817330649480618691

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