4 探る

「ネコもどきは、ネコに擬態し人間に身の周りの世話をさせるという、驚きの生存戦略を採用した種族でして。実は日本にも結構な数がいるのです」

 というニセ女神からの簡単な紹介の後。

「では、乾杯!」

 ニセ女神とネコもどきは共にカップ酒を飲み、カニカマをつまみ始めた。

 やりたい放題だな(数分ぶり二度目)。


「で、これは何の集まりなんだ」

 とネコもどき。

 知らずに来たのか。

「端的に言いますと、この方の飛び降りを止めようの会ですね。ネコもどきさんの癒しテクでなんとかなりませんか」

「ほう。なら、そうだな。ここは一つ、俺の歌とダンスを披露してやるか」

 いや、黙ってネコに擬態してくれていれば一番の癒しになったはずなのだが。

 

 と思ったが、実際に見せてもらうと、歌とダンスも案外悪くなかった。

 ひとしきり楽しんだ後。

「しかしあれだな。結局、自殺を止めるなら、なんで死にに来たのか理由を聞かなきゃ始まらないんじゃねえか?」

 ここにきて、ネコもどきが核心をつく。

「だそうですが」とニセ女神。

「話したくありません」と僕。


 僕が死にたいと思った理由について、そもそもうまく説明は出来ないのだが。

 言ってみれば、僕は、自分が人間のニセモノであるように思えるのだ。

 周囲の人々と話すにしても、一緒に行動するにしても。

 テンポとか価値観とか喜怒哀楽とか、なんだか自分だけがどこか人とずれているようで、でも具体的にどう直したらいいかも分からなくて。

 特に社会人になってから、そんなことを否応なく実感して。

 この先の人生も、ずっとそんな思いを抱えながら生きていくのかと思うと。

 なんだか死にたくなってしまったのだ。


「なるほど、そういう理由でしたか。人間のニセモノ……」

「!?」

 心を読むな。

「ふふふ、驚いたでしょう。これが私のニセ神通力。あなたの心を読んだうえ、テレパシーでネコもどきさんにも共有してます」

 ふふふじゃねえよ。

「しかし、お前の死にたい理由……」

「ええ」

「「全然ピンとこない」」

 勝手に心を読んでおいて、何という言い草。


「大体、そんな理由で死ぬ必要は全然ないんですよ。ニセモノでも別に良いじゃあないですか。ホンモノかニセモノどうかなんて明確な基準も無いですし。人は人。あなたはあなた。開き直って、胸を張っていればいいのです。我々のように」

 カップ酒をタン、と床に置きながら、ニセ女神が強い調子でのたまう。

「お前、けっこう酔ってるな」とネコもどき。

「いいでしょう、分かりました。あなたには、ある物語をお聞かせします。女神に成れなかった者の物語を」

 そしてニセ女神は、勝手に語りだした。

 テレパシーで。

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