3 飲む

「うーん、うまい!」


 僕が誘いを断ったところ、ニセ女神は、

「そうですか……では失礼して」と言い、流れるような動作で自らの分の発泡酒をプシュッと開け、一人で酒盛りを始めた。

「あっ、アルコールが駄目でしたらノンアルもありますよ。あとつまみも色々買ってきましたので、遠慮せず適当にどうぞ」

「……」

 屋上の固い床へ強引に座らされた僕は、ニセ女神が発泡酒をグビリと飲み、カニカマや魚肉ソーセージをモグモグやっている様子を無言で眺める。

 やりたい放題だな。


「あの」

 このまま見ていても仕方がないので、僕は小さく挙手をして発言する。

「はい、飲み物ですか? ノンアルカクテルにします? メロンソーダ? それともほうじ茶?」

「いや、飲み物ではなく……あの、お金が必要なら差し上げるので、僕のことは放っておいてもらえませんか」

「……はい?」

 ニセ女神は少しの間、意味が分からないという様子で首をかしげた。

 が、すぐに気を取り直し、

「ああ、はいはい。そうきましたか。そういうことでしたら……」

 ドゥルルル……と、ドラムロール音の声真似をするニセ女神。


「お断りです」

 両腕で大きなバツマークを作り、突き付けてくる。

 何故だ。

「ニセ女神シップに反するんですよね、そういうのは。こう、なんか違うんです。そんなつもりで来たのではない。ナメてもらっては困ります」

 よく分からないが、当初思っていたよりも面倒くさい奴だ。


 そのときである。

「にゃーん」

「お、ネコ」

 鳴き声の方向を見ると、ネコが我々のすぐ側まで寄ってきていた。

 そして無防備に腹を見せるので、とりあえずわしゃわしゃと撫でる。

「ああ、ネコはいいですね。生まれ変わったらネコになりたい」と僕。


「そうは言うがな。ネコだって、そんなに良いもんじゃあねえぜ」

「!?」

 今の声は、まさか。

 撫でる手をぴたりと止め、僕は目の前のネコを凝視する。

「かかりましたね。そのネコちゃんはネコちゃんにあらず。なんとその正体は……私のお仲間、ネコもどきです」

「よろしくな、坊主」

 信じ難いことに、そのダンディなバリトンボイスは、目の前のネコ……改め、ネコもどきの口から発せられていたものだった。

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