第14話 脱出
「ふう……疲れた」
それにしても……少しやりすぎたかもしれない。僕の目の前には魔法のせいで大きな穴が空いてしまっている。
もう少し力を入れていたらダンジョンが崩れて生き埋めになるかもしれなかった。次からは気をつけなきゃね。
と、そう考えていると穴の方から
「ん?」
気になってそっちの方に向かってみると、なんとそこにはリッチの頭部が転がっていた。
体は完全に消滅したけど、頭だけは
でもその頭部も徐々に消滅が始まっている。どうやら受けたダメージが大きくて消滅は免れないみたいだ。
リッチの頭部はその虚ろな目で僕のことを見ると、ゆっくり口を開く。
「……まさか私が貴様のような小僧に負けるとはな。肉体を捨て、アンデッドと成り果てても研究を続けたというのに……情けない。私の全ては無駄だった……」
そう自嘲するリッチ。
だけど僕はそれは間違っていると思った。
「そんなことありません。貴方の魔法はどれも素晴らしかったです。特にあの僕を閉じ込めた魔法なんかは素晴らしかったです! あのアプローチの仕方は僕も思いつきませんでした、参考にさせていただきます」
そう言うとリッチは驚いた様に目を見開く。
「本当に……そう思うか?」
「ええ、貴方は素晴らしい魔法使いです」
「そうか……そう思ってくれるか……」
リッチの目からつう、と一筋の涙がこぼれ落ちる。
すると頭が崩れる速度が増してしまう。未練がなくなったせいかもしれない。
「一人ではなく……お前のような友がいれば……私の人生ももう少し違ったものだったのかもしれないな……」
「安心して下さい。貴方の魔法は僕が継ぎます。そして次の人にも繋いでみせます」
「ああ……それは……素晴らしい、話だ……」
最後にそう言い残して、リッチは完全に消え去った。
僕はこの人の生前の名前も知らない。だけどこの人の魔法を通じて、なんだか少し絆が芽生えた気がした。
この人がしたことは許されないことだけど、魔法に罪はない。ちゃんと継いでいかないと。
そう思っていると……
「ウィルどのっ!」
「わわ!?」
突然後ろからガバっと抱きつかれる。
背中に当たるやわらかい感触、こんなことをしてくる人は一人しか思い浮かばない。
「ちょっとカレンさん、危ないですよ!」
「私の力が足りないばかりに申し訳ございません! 不出来な私にどうか罰をお与え下さいー!」
「罰なんていいですって!」
泣きながら抱きついてくるカレンさんをなんとか引き剥がす。
「ぐす、ご迷惑おかけします……」
「いえ、無事で何よりですよ。僕があの人を倒せたのもカレンさんたちが弱らせてくれたおかげですのでそんなに礼を言わなくてもいいですよ」
そう言うとカレンさんはなぜか「……そう解釈されてしまうんですね」と困った表情を浮かべる。いったいどうしたんだろう?
「俺からも礼を言わしてもらう。ありがとうなウィル。命を救ってもらったことは忘れねえよ」
足を引きずりながらこっちに来たマーカスさんもそう言う。
カレンさんは結構元気そうだけど、マーカスさんは傷が深そうだ。僕は回復魔法を使ってひとまず傷を塞ぐ。これで少しは大丈夫かな?
「……凄いな。もう全く痛くない。こんな凄い回復魔法見たことも聞いたこともないぞ。カレンがお前に夢中になるのも頷けるってもんだ」
「そんな、大げさですよ。それより早くここを出ましょう。あまり長くは持ちそうにありません」
さっきの人を倒したからか、ダンジョンが崩れて来ている。
このままだと生き埋めになっちゃう、早く抜け出さないと。
「そうだな、ひとまずは脱出するとしよう。話はそれからだ」
マーカスさんはしっかり宝箱を確保すると、来た道を引き返す。僕とカレンさんもその後に続く。
「ウィル殿、あの、疲れているでしょうし私がおんぶしましょうか? あ、抱っこでもいいですよ!」
「いえ、大丈夫です」
「……そうですか」
なぜかしょんぼりうなだれるカレンさん。まさか僕を抱っこしたいわけもないし、どうしたんだろう。
なにはともあれ僕たちは無事ダンジョンを脱出するのだった。
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