第13話 堕ちる太陽

「死ねッ!」


 リッチは生み出した黒い剣をウィルめがけて打ち出す。

 それらは複雑な軌道を描きながら襲いかかってくる。数も多いのでそれらを目で追うのは困難だ。


「串刺しにしてやる!」


 四方八方から襲い来る黒剣。

 しかしウィルはそれらを一瞥もしない。


 勝った。そう確信するリッチだったが、彼の攻撃は思いもよらぬ方法で撃退される。


「頼んだよ、黒軌衛星サテライト


 ウィルがそう言った瞬間、彼の周りを周回していた黒い球体がぴたりと止まる。

 そして次の瞬間、一斉に動き出し襲いかかってくる黒い剣を全て撃退してしまった。


「なん、だと……!?」


 そのあまりに速く、正確な動きにリッチは驚愕する。

 古今東西様々な魔法を研究したリッチだが、このような魔法、見たことも聞いたこともなかった。


「き、貴様! いったい何をした!?」

黒軌衛星サテライトには攻撃してくるものを自動で撃退してくれる機能があります。貴方がいくら手数を増やしても、死角から攻撃しても意味はありません」

「馬鹿な……!」


 リッチは自分でいくつもの魔法を作り出している。

 だからこそウィルの言っていることが理解できなかった。自動で相手の攻撃に反応し撃退する魔法など聞いたことがない。

 魔法は全て手動マニュアルで動かさなければならない。ゴーレムなども基本的には自分で念じて動かさなければならない。


 しかしウィルは複雑な術式で自動オート操作を可能にしていた。それは肉体を捨て長い時間を魔法の研究にあてたリッチであってもたどり着けぬ一つの境地であったのだ。


「ありえぬ……ありえぬ!」


 リッチは激昂し、更に黒の剣を大量に生み出す。

 そして次々とその剣を打ち出すが、ウィルを守る黒軌衛星サテライトはそれらをことごとく撃退した。


「これなら、どうだ!」


 リッチはウィルのいる空間を指定。

 そしてそこら一帯を一瞬にして闇の牢獄に封じ込める。


(奴を封印している間に、体勢を立て直す……!)


 相手にペースを握られていることが分かっていたリッチは、ウィルを閉じ込めている間に魔力を必死に練る。闇の牢獄は一度攻略されているが、それでもしばらくは閉じ込めておけるはず。


 そう思っていたが……閉じ込めてからものの三秒後に、パリン! という音と共に空間にヒビが入りウィルが出てきてしまう。


「もうこの術式は暗記しました」

「ぐ……っ!」


 ウィルはリッチめがけて駆け出す。

 そして展開している黒軌衛星サテライトを右の手の平に集めて一つにまとめる。リッチもまたウィルを仕留めるため残っている全ての魔力を集めていた。


「私の全ての力を持って殺してやる! 召喚サモン骸の巨人スケルトン・ジャイアント!」


 地面が盛り上がり、そこから巨大なスケルトンの上半身が現れる。

 その大きさは十メートルを優に上回る。今いる遺跡はかなり広いが、それが埋まってしまうほどの大きさだ。


 しかしウィルは逃げることなく正面からそれに突っ込んでいく。


「集まれ、黒軌衛星サテライト


 ウィルは集めた黒軌衛星サテライトを合体させ、それに魔力を注ぐ。

 すると見る見るうちに球体は巨大化していく。その大きさはウィルの体の数倍……約三メートルほどに膨れ上がる。


 黒く、巨大なそれは、まるで『漆黒の太陽』と形容するに相応しい姿をしていた。


「墜ちろ、黒輝天星エクリプス


 生み出された漆黒の太陽は、巨大なスケルトンと正面から衝突する。

 五属性が全て組み込まれたその球体は、触れるもの全てを『消滅』させる力がある。それはスケルトンも例外ではなく、触れたところからボロボロと崩れていく。


「馬鹿、な……!」


 リッチは魔力を全力で注ぎ込みスケルトンを再生させようとするが、消滅するスピードには追いつかない。


「……貴方の魔法はどれも素晴らしかったです、同じ魔法使いとして尊敬します。だけど……たくさんの人を傷つける貴方を、放っておくことは出来ません」


 ウィルが最後に力を込めると、漆黒の太陽は更に膨張しスケルトンを一気に飲み込む。そして勢いそのままにリッチも飲み込もうとする。


「う、ご、ああああああっ!」


 響き渡るリッチの絶叫。

 漆黒の太陽はリッチの体も消滅させてしまった。


 こうしてダンジョンの戦いはウィルの勝利で幕を下ろしたのだった。

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