第24話 確執
「どういうつもりだウィルバート。俺に逆らうつもりか?」
「……お前は越えちゃいけない
そう言い放つと、アレックスは「はっ!」と笑う。
「いい顔をするじゃないかウィルバート、どうやらよっぽどそのメイドにお熱なようだな! そんなに可愛がってもらっているのか?」
……今までこの兄には散々嫌がらせを受けて来たけど、こんなにむかついたのは初めてだ。
僕はいくら悪く言われても構わないけど、ルナは別だ。だらしない僕を支え続けてくれた彼女は、僕にとって家族も同然だ。そんな彼女を侮辱することは到底う許せない。
「どうやら図星のようだな! 引きこもってよろしくやってたわけだ!」
「アレックス……少し
「――――っ!?」
強く睨みつけながらそう言うと、アレックスは急に腰を抜かしたようにその場に尻をつく。
アレックスは涙目で「ひ、ひい!」と言いながら僕の手を振り解こうとするけど、僕はその手を離さなかった。
「な、何をしやがったてめえ!」
「……僕は何もしてないよ」
「ふ、ふざけんな! また妙な魔法を使ったんだろう! そうじゃなきゃ俺がこんな、こんな気持ちになるわけがない! このひきょうも……」
言い終えるより早く、僕は魔力をアレックスの中に流し込む。
他人の魔力は、異物だ。体内に流し込まれたら当然拒否反応が出る。魔力が低ければ尚更抵抗する力は低い。アレックスは僕の手を払いのけると、顔を青くしながら両手で口を押さえる。
「うぷっ、う……おえっ……!」
押さえる手の隙間から少量の吐瀉物が漏れて、ツンとした臭いを一瞬感じる。
口に溢れたそれをなんとか飲み干したアレックスは、「ぜえ、ぜえ……」と荒い呼吸をしながら怒りに満ちた目を僕に向ける。
「よくも俺に恥を……ゆ、許せねえ。リガルド!」
アレックスが叫ぶと、控えていた騎士が前に出てくる。
こんな状況にもかかわらずその表情は冷静で、落ち着いている。
「やれ! その愚弟を叩き潰せ!」
「よろしいのですか殿下? 皇子を傷つけたとなれば相応の騒ぎにはなると思いますが」
「責任は全部俺が取る! いいからそいつを痛めつけろ!」
「……かしこまりました」
リガルドはゆっくり僕の前に歩いてきた。
その足取りだけでこの人が強いというのがよく分かる。リガルドは『帝国の剣』という異名を持つほどの騎士、その強さはお墨付きだ。
「どいてください。僕は貴方の後ろにいる人に用があるんです」
「……これは驚きました。これほどの『圧』は戦場でもそう体験できるものではありません。あの皇子に耐えられるわけもない、か」
「何を言ってるかは分かりませんが……邪魔をするのであれば僕も本気でやります」
「ふふ、素晴らしい。心が躍りますよ」
一触即発の空気が流れる。
アレックス相手には魔法を使わなかったけど、この人相手じゃそうはいかないと思う。
戦うのは好きじゃない。それにこんな所で魔法を使えば色んな人に迷惑がかかるだろう。
でもそれでも……ルナを馬鹿にしたあいつを、このまま放っておくわけにはいかなかった。
全身に魔力をみなぎらせ、前傾姿勢になる。
そして相手の呼吸を読んで一気に駆け出そうとしたその瞬間、辺りに大きな声が響き渡る。
「そこまでだ! 全員矛を収めろっ!」
その言葉に反応し、僕たちは動きを止める。
声のした方向に視線を動かすと、そこには僕の兄であり第一皇子のユリウス兄さんがいた。兄さんと会うのも城を出て以来だ、成長して更に凛々しくなっていた。
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