第23話 望まぬ再会
スノウさんに襲われた日の翌日、僕は王城に来ていた。
ちなみに今日は教え手の仕事は休みだ。本当なら家で引きこもりライフを満喫……したいところだったけど、父上に無理やり呼び出されてしまったのだ。
「うう、本当に嫌だ……帰りたい……」
「頑張りましょうウィル様。帰ったら美味しいクッキーをお焼きしますから」
「うん、がんばる……」
メイドのルナに励まされながら王城の中を歩く。
そんな憂鬱な気持ちを抱えていると、更に憂鬱にさせてくる人物に僕は出会ってしまう。
「またお前に会うとはなウィルバート。どの面下げてここに来た?」
長い赤髪を揺らしながらやって来たのは僕の兄である第二皇子アレックスだった。
うわあ、一番会いたくない人に会っちゃった。僕も本当に運がない。
アレックスの後ろには屈強な兵士も一人いる。
確かあの人はリガルドさん、だったかな? 優秀な帝国騎士と聞いたことがある。どうやら今はアレックス付きになっているみたいだ。
「……僕は父上に呼ばれたから来ただけだよアレックス」
「てめえまた俺を呼び捨てにしたな……? どうやら追い出されてもその生意気な性根は変わってないみたいだな!」
アレックスは顔に怒りを滲ませながら、ずんずんと近づいてくる。
二年でアレックスの体は大きくなった。それに対して引きこもってばかりの僕はそれほど成長していない。殴られたら結構な怪我を負ってしまうかも知れない。
どうしよう。焦った僕は思わず魔法を発動する。
「え、えいっ!」
「覚悟し……っておわっ!」
アレックスの足元に氷を張ると、アレックスはすっ転んでゴン! と床に顔を思い切り打ちつける。うわぁ……痛そうだ。
「てめえ、一体何を……!」
「な、何もしてないよ。ほら、呪文も唱えてないでしょ?」
アレックスは無詠唱魔法のことを知らないはず。これで誤魔化せるはずだ。
あれ? 前にもこんなことがあったような……?
「うるさい! お前といるとこんなんばっかだ! 二度と城に戻って来れないよう、俺が躾けてやるよ!」
アレックスは鼻から血を流しながらも再び向かってくる。
し、しつこい。どう対処すればいいんだろう。
そう悩んでいると、ルナが僕を守るように間に入ってくる。
「お前は確かウィルバートのメイドの……。なんだ? メイドごときが俺に楯突くつもりか?」
「……」
ルナは無言で僕を守ってくれる。
でも状況はあまり良くない。
ルナとアレックスの強さの差は天と地ほどあると思う。ルナが軽く小突くだけでアレックスはボロボロになるだろう。
だけどそんなことしたら確実に問題になるだろう。
あんなだけどアレックスは一応皇子だ。もしメイドであるルナが傷つけたら僕でも庇いきれない。
ルナもそれを分かってるから手を出せない。
もしかしたら自分はどうなってもいいのかもしれないと思ってるかもしれないけど、そうしたら僕にも迷惑がかかると分かってるから。優しいルナはそれが嫌なんだと思う。
「……」
ジッとアレックスを見て、牽制するルナ。
するとアレックスはルナを見てニヤ、と気持ち悪い笑みを浮かべる。
「よく見たらお前、なかなか綺麗な顔をしてるじゃないか。出来損ないのウィルバートにはもったいない。あいつのお手つきなのは癪だが……俺が貰ってやろうか? 獣人はあまり好きじゃないけど、まあたまには趣向を凝らすのもいい」
あまりにも失礼な言い方に、ルナの尻尾は逆立つ。
ぎり、という歯軋りの音も聞こえてくる。それでも彼女は手を出さず我慢した。
「どれ、少しだけ味見してやるよ。こっちに来い」
アレックスはルナの腕を掴もうと手を伸ばす。
その瞬間、僕は弾けるように駆け出し、その手を掴んで止めた。この先どうなるかなんて考えてないけど、体が勝手に動いた。
これ以上この人の暴走を許しちゃいけない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます