第20話 悪夢の終わり
「これで術式変換は終わり……っと。エマ、そっちはどう?」
「ひい、ひい、今四割ってところですかね」
「分かった。僕もそっちを手伝うよ」
「助かります……って速っ! 私いりましたかこれ!?」
「当然だよ、僕一人じゃここまでスムーズにいかなかった」
「も、もう終わりかけてる……やっぱり私いらなかったんじゃ……」
エマはそう言うけど、僕はかなり助かっていた。
僕が送った術式を、エマは分かりやすく整頓し並び替えてくれていた。そのおかげで解析をスムーズに行うことが出来た。
やっぱり彼女はとびきり優秀な生徒だ。
「えっと解析は終わりましたけど……これ、どうやって解けばいいんですか? こんな複雑な術式、解くのに三日はかかると思うんですけど」
「そうだね正攻法だとそうなる。だから少しズル《・・》をする」
僕は右手に魔力を集中。
そして火、水、雷、土、木の五属性を均等に混ぜ合わせて黒魔法を発動する。
「師匠、それは……」
「これは僕が開発した魔法、黒魔法の『黒星』。この魔法には全ての物を消滅させる力があるんだ」
「じゃ、じゃあ!」
「そう、消滅させるのは魔法も例外じゃない」
僕は黒星に意識を集中させる。
この魔法をこのままスノウさんに当てたら、彼女の肉体も消滅させてしまう。
だからこの魔法の消滅対象を
それをするために解析が必要だったんだ。
「対象指定……完了。これでいけるはずだ」
黒星の効果対象を呪いの術式に指定する。
試しに軽く黒星の表面を触ってみたけど、僕の指が消えることはなかった。次にスノウさんの体でも試してみたけど、そっちも大丈夫だった。
よし、これならいけるはずだ。
「う、うう……」
苦しそうにうめくスノウさん。これ以上は本当に危険そうだ。
僕は意を決し、黒星を呪いの魔法陣に押し付ける。
「いっけえ!」
押し当てられた黒星は、魔法陣の中にぎゅおんと吸い込まれる。
するとスノウさんの体がびくん! とものすごい勢いで跳ねる。異物の侵入に呪いが反応しているんだ。
「ぐ、ああ……っ」
スノウさんは苦しそうな声を上げる。
僕とエマはそんな彼女の手を握り「がんばれ!」と声をかける。
するとそんな祈りが通じたのか、スノウさんの容態は次第に収まっていき……そして彼女の胸に刻み込まれた呪いの魔法陣はシュウウ……と音を立てて消え去った。
「で、できた……!」
念のためもう一度体内を
「ん、うう……」
スノウさんがゆっくりと目を開ける。
疲れた様子だけど、その表情は穏やかだ。痛みももうなさそうだね。
「え、体が……痛く、ない……?」
驚いたように言う彼女の手を僕は握る。
「大丈夫。もう悪夢は終わったから」
「うそ、本当に……」
自分の胸を見て、呪いがなくなったことをスノウさんは確認する。
すると彼女は目からつう、と涙を流し、僕の握る手にすがるように泣く。
「大丈夫、大丈夫だから……」
僕は彼女が泣き止むまで、彼女の頭をなでつづけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます