第21話 和解
目が覚めたスノウさんに、僕は自分が魔族ではないことを説明した。
彼女の呪いを解いたこと、エマが味方になってくれたこともあって、ひとまずは信じてくれたけど、それだけじゃ魔族に似た魔力を僕から感じたことへの説明にはなってない。
彼女の疑念を完全に晴らすためにも、あれをする必要がありそうだ。
「
僕がそう唱えると空中に魔法陣が出現し、そこから際どい格好をしたお姉さんが現れる。
彼女の名前はアスタロト。僕が契約している悪魔だ。
僕に魔族に似た魔力がついていたのはアスタロトが原因だ。彼女の説明をしたらスノウさんの疑念も晴れるはず。
「どうしたのウィルくん、こんな夜中に呼び出して。もしかしてお姉ちゃんといけないことをした……って、誰? この子たちは」
「えっと、説明するね」
僕はアスタロトに何があったかを説明する。
その間スノウさんとエマは僕たちのことをポカンとした目で見ていた。
「なるほどそんなことが……大変だったわね。それにしても魔族はそんな下らないことに魔法を使っていたのね。我が子孫ながら恥ずかしいわ」
アスタロトは怒った様子で言う。
また魔族の評価が下がってしまったみたいだね。
僕は彼女が怒っている間に、スノウさんとエマにアスタロトを紹介する。
彼女は悪魔で、僕と契約しているということ。普通じゃ信じられない荒唐無稽な話だけど、実際に目の前にいるんだ、信じる他ない。
「まあとにかくそういうことなんだ。僕に魔族に似た魔力がついているのはアスタロトが原因なんだ。納得してくれた?」
「あ、はい……」
スノウさんはポカンと口を開いたまま首をコクコクと振る。
ふう、これで疑いは完全に晴れたかな。
「じゃあもう大丈夫だからアスタロトは帰っていいよ」
「え? せっかく来たのにもう終わり!? もっとお姉ちゃんとたのし――――」
「
僕が指を振ると、アスタロトは強制的に魔界に送還される。
なんか色々と叫んでたけど、まあ今度聞けばいっか。
「し、師匠! なんですかあのえっちなお姉さんは! ああいうのが趣味なんですか!?」
アスタロトがいなくなるとエマが物凄い剣幕で迫ってくる。
こ、怖い。
「いやアスタロトはもとからあんな感じだったよ。別に僕がああいう格好をさせてるわけじゃ……」
「でもチラチラと見てましたよね? 私もああいう格好をすれば……」
エマはぶつぶつと恐ろしいことを言う。
慕ってくれるのは嬉しいけど、アプローチの仕方がおかしいよ……
「あの、先生」
「へ?」
スノウさんに呼ばれ、そちらを向くと彼女は地面に膝をついて頭を下げていた。いわゆる土下座というやつだ。僕は慌てて彼女に駆け寄る。
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
「数々の非礼……申し訳ありません。呪いを解いて下さったご恩は一生忘れません」
「わ、わかったから顔を上げて! ね?」
そんな風にされるとなんかぞわぞわする。
スノウさんは僕の言った通り顔を上げてくれる。
「勘違いとはいえ、私は先生に刃を向けてしまいました……その罰はお受けいたします。兵士に突き出して下さい」
「いやいや、何を言ってるの?」
僕がそう返事をすると、スノウさんは「え?」と意外そうな顔をする。
「ほら、僕は一切傷ついてないよ。兵士に突き出す必要はないよ」
「で、ですが……」
「それに生徒が間違った時、それを正してあげるのが教え手の正しい姿だと思うんだ。だからこの件はこれで終わり! さ、もう遅いしみんな帰ろう!」
「先生……」
スノウさんは熱のこもった視線で僕のことを見てくる。その横ではなぜかエマまで同じ様な視線を僕に向けている。
これで少しは教え手として認めてもらえたかな? 今回は結構うまく出来たんじゃないかと思う。
僕は最後に魔法で壊れた広場を直す。
ふう、これならここで戦いがあったこともバレないよね。
「……先生、本当にありがとうございます」
「だから気にしなくてい――――」
スノウさんの方を振り返ろうとした瞬間、頬にやわらかいものが当たる。
何が起きたのかと視線を動かすと、なんと僕の左頬にスノウさんがキスしていた。
「え、あ」
突然の出来事に、僕は固まる。
スノウさんは唇を離すと、耳まで真っ赤にさせながら口を開く。
「本当にありがとう先生。お礼はまた今度、たっぷり返させていただきますね」
そう言ってタタっと走って夜の帝都に消えていく。
僕はその様子を静かに見守るのだった。
「あーっ! 何してるんですか! ズルい! ズルです! 私だってそこまでしてないのに! きーっ!」
「……うるさいエマ」
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