第17話 仮面の下は

『ゴゴ……ゴ……』


 声にならない声を上げるゴーレム。


 ゴーレムはある程度の自己修復機能があるけど、ここまでバラバラにされたらそれも機能しない。力を失ったゴーレムは粉々に砕けて氷の破片となって地面に散らばってしまう。


「……よくも私のゴーレムを」


 仮面の人はかなり怒った様子で僕の方に近づいてくる。

 うう、怖い……。大人しくルナに助けを求めたほうがよかったかもしれない。


「あの、こんなこともうやめませんか? 多分誤解されていると思うんですけど……」

「白々しい……お前が『魔族』であることは分かっているんですよ!」

「……へ?」


 仮面の人のまさかの言葉に僕は間の抜けた声を出してしまう。

 僕が、魔族? なんでそうなるんだろう。


「いや、見てくださいよ。僕はどこからどう見ても人間ですよ。ほら、角もないし」

「確かによく擬態できています。普通の人なら見破ることは不可能でしょう。しかし私の目は誤魔化せません」

「目……?」

「私の目は対象の魔力量を見抜くことが出来ます。つまり私には見えているんですよ。貴方の体の中に隠されている膨大な『魔力』がね……!」


 その人は仮面の奥の瞳で僕のことを睨みつけながら言う。

 なるほど……そういうことだったんだ。

 確かに僕は体の中に普通の人より多い魔力を持っている。だからこの人は僕が魔族だと勘違いしてしまったんだ。


 それさえ分かれば弁明できる。

 早く誤解を解いて家に帰らなくちゃ。


「確かに僕は魔力が多いです。でも普通の人間なんですよ。疑うなら体を調べていただいて構いません」

「そうやって油断させておいて、近づいたところを攻撃するつもりでしょう。その手には乗りませんよ」


 ダメだ。完全に警戒されちゃってて話ができない。


「帝都に侵入して何をする気かは知りませんが、ここを好きにはさせません。私の最大魔法で仕留めてみせます! 二重詠奏ツインテット氷結魔機兵アイスゴーレム!!」


 仮面の人は大量の氷のゴーレムを生み出す。

 その数は十を超える。これだけのゴーレムを一度に生み出すのはかなり大変なはずだ。やっぱりこの人の魔法使いとしての技量は高い。


「行けゴーレム! その侵入者を倒せ!」

『ゴゴー!!』


 ゴーレムたちが一斉に襲いかかってくる。

 これだけの数を相手にするのは流石に大変だ。だったら目には目を、こっちも同じことをすればいい。


三重詠奏トライテット土地魔機兵アースゴーレム


 広場の土が盛り上がって、大きなゴーレムが誕生する。

 土を高密度に固めたその体は、下手な岩よりずっと硬い。氷で出来た相手のゴーレムにもこれなら負けないはずだ。


「行け! アースゴーレム!」


 僕が命じるとアースゴーレムはゆっくりとその大きな拳を振り上げ、アイスゴーレムたちに振り落とす。

 衝撃でゴーレムたちは砕け散り、地面に大きな亀裂が入ってしまう。後で直しておかないと……。


「くっ……!」


 アースゴーレムの放った攻撃はアイスゴーレムたちを粉々にしてしまう。するとアイスゴーレムの砕けた破片の一つが勢いよく相手の仮面に命中する。


 パキン! と音を立てて真っ二つに割れ、仮面は地面に落ちる。

 そうして仮面の人の素顔が、月明かりの下あらわになる。それを見た僕は目をむいて驚いた。


「君は……スノウさん?」


 仮面の下から現れたのは、僕の生徒の一人スノウ・エリクシアさんだった。

 綺麗な青い髪と凍るように冷たい目が特徴的な生徒だ。


 いつも喋ることなく淡々と授業を受けている彼女がなぜ……?


「スノウさん。なぜこんなことを……」

「……教えてあげますよ先生・・。私がなぜ魔族を許せないかを」


 そう言って彼女は突然服をめくって胸元を露わにする。

 するとそこには黒く光る小さな魔法陣が刻み込まれていた。


「私は昔魔族の手によって呪いを刻み込まれました。このような犠牲者を出さないためにも……貴方はここで私が倒す!」

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