第15話 帰り路
「
「えーと……ちょっと待ってね……」
僕はモニカさんが書いた魔法の論文に目を通す。
まだ粗は目立つけど、いい論文だ。これならもう少し直すだけで大丈夫そうだね」
「うん、いいと思うよ。頑張ったね」
「ほんと!? やった~!」
モニカさんは嬉しそうに喜ぶ。
彼女たちは魔導師ギルドに所属しているけど、まだ正式なギルドメンバーではない。ここの教室でいくつもの試験を合格して、単位を溜めた人だけがギルドの正式なメンバーになることが出来るんだ。
魔法の論文を作るのもその一つ。モニカさんはそれが苦手みたいで僕は外が暗くなるまでお手伝いをしていた。
「ありがとう先生~。私、これだけは苦手だったんだ」
「僕は少しお手伝いしただけだよ。これはモニカさんの実力だよ」
「先生って本当に教えるの上手だよね~。何かそういうのやってたの?」
僕はその言葉にギクリとする。
ネットの管理人……プロフェッサーとして活動していた僕は、色んな人にものを教える立場だった。
そのせいでもしかしたら教えることが得意になっていたのかもしれない。でもとてもじゃないけどそんなことを彼女には言えない。これは僕の秘密なんだから。
「たまたまだよ、たまたま」
「ふ~ん……」
モニカさんは僕を疑うようにジーッと見つめた後「そっか」と言いそれ以上深掘りしなくなる。飽きっぽい彼女は興味がなくなったみたいだ、助かった……。
「あ、そうだ。今日はこれからやることあるからもう帰るね。じゃあね先生、ありがと~」
「うん。気をつけて帰ってね」
本当に先生みたいなことを言って、僕は彼女と別れる。
ふう、今日も大変だった。
「確かモニカさんは歳が離れた下の兄弟の面倒を見ているんだったっけ。偉いなあ」
家の仕事から逃げて引きこもり生活を謳歌していた僕とは大違いだ。見習わなくちゃ。
まあ家に戻るつもりはないんだけど……。
「よし、じゃあ僕もそろそろ帰ろうかな」
ルナもご飯を用意して待ってる時間だろう。僕は明かりを消して帰路につくのだった。
◇ ◇ ◇
「こ、この本は……!」
帰路についたはずの僕は、古本屋でにらめっこをしていた。
僕が手に持っているのは『次元魔法の応用と限界』という古い本だ。
この本の著者さんは独創的な術式を構築する人なんだけど、書いた本を再版しない主義の人のせいで本がほとんど残っていないんだ。
だからちゃんと読める状態で見つかったのは奇跡に近い。なんとしてでも手に入れたいけど……
「うう、高い……」
これが貴重な本だとお店も理解していて、かなりいい値段がついていた。
皇子である僕だけど、家から出ている状態なので使えるお金は多くない。一応お小遣いは貰っているけど、魔法の研究に使う器具や素材、本などで一瞬で溶けてしまう。
今月の分はとっくに使い果たしてしまっている。一応教え手としてのお給料も貰えることにはなっているけど、それを貰う頃には売り切れてしまっているだろう。
「何か稼ぐ方法はないかなあ……」
ひとまず古本屋を出た僕は、一人呟く。
働いたその日にお金が貰える、そんな仕事があればいいんだけど。家庭教師とかならその日に貰えるかもしれなけど、そんなアテはない。
エマとかに聞いたら何か教えてくれるかな?
そんな事を考えながら家に向かって歩く。
すると僕は……また後ろから視線を感じる。
「…………」
今度は振り返らない。
その視線の主は用心深い、振り返るとあっという間にいなくなってしまうことは今までの経験から分かっていた。
無効から危害を加えてはこなさそうだけど、流石にこう毎日つきまとわれてたら参ってしまう。周りに生徒のいない今日、正体を突き止めるんだ。
「……よし、まだついてきているね」
首の後ろに刺さる視線を感じながら、夜の帝都を歩く。
魔力探知をしたらバレてしまう可能性もあるので、使わないでおく。よっぽど敏感じゃないと魔力探知に気づくことはないけど、念には念を入れてだ。
僕は謎の相手に少し恐怖を覚えながらも、ある場所に向かうのだった。
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