第14話 視線

「……だから魔法を使うには頭の中に使う魔法の明確なイメージが必要なんです。呪文を唱えるのはそのイメージを明確にするため、だからそもそも頭でイメージが固まってるなら呪文の詠唱は不要になるんです」


 僕が無詠唱魔法の原理について説明すると、生徒さんたちは興味深そうにメモを取る。

 早いもので魔術師ギルドの教え手になってもう一週間の時が経った。最初は緊張したけど、人に教えるのにもだいぶ慣れてきた……と思う。


「じゃあ言ったとおりにやってみて下さい。分からないところがあったら呼んでくださいね」


 そう言うと生徒さんたちは「はい!!」と元気な声で返事して各々魔法の練習を始める。

 みんなとも仲良くなれてきたし順調だ。これならすぐに辞めるみたいなことにはならなそうだ。


「師匠! 見て下さい! ほらっ!」


 大きな声を出しながら近づいてきたのはエマだった。

 彼女の手には小さいけど魔法の火が灯っている。


「この火、詠唱なしで出せたんです!」

「凄いね、もう出来るようになったんだ」

「えへへ」


 エマは生徒たちの中でもかなり優秀だった。

 だからこそ僕みたいな部外者を教え手に推薦するなんて無茶を押し通せたんだろうね。


 エマの次くらいに優秀なのはモニカとジャックだ。

 モニカは面倒くさがりな所があるけど、物覚えがとてもいい。ジャックは決闘に負けてから凄い真面目に僕の言うことを聞いてくれている。


 だけど中にはまだ気を許してくれない生徒さんもいる。


「どう? 上手くできそうですか?」

「…………」


 尋ねるけど、その生徒さんは僕のことを華麗に無視する。

 彼女の名前は確かスノウさん。青い綺麗な髪が特徴的な寡黙な女の子だ。


 彼女は僕だけじゃなくて他の生徒とも滅多に話さない。エマもまともに会話したことがないと言っていた。

 成績はとても優秀みたいで、過去の試験ではエマとトップ争うほどだったらしい。確かに魔力も澄んでいて、揺らぎがない。魔法を使っているところを見たことはないけど、多分上手なはずだ。


「……何か分からないことがあったら言ってね。僕に分かることだったらなんでも教えるから」


 交流を諦めた僕は一旦彼女のもとから去る。

 引きこもりには厳しすぎる相手だ。胃がキリキリと痛む……。


「さて次は誰の所に……ん?」


 急に視線を感じた僕は、後ろを振り返る。

 だけどそこには魔法の練習をしている生徒たちしかいない。


「なんだろういったい?」


 最近視線を感じることが多い。

 だけど振り返っても変な人はいないんだ。いったい何が起きてるんだろう。


 魔力探知をしても生徒以外の魔力は感じ取れないし……不思議だ。


「せんせ~、私上手くできないんだけどぉ~」


 視線の正体を探っていると、モニカさんが後ろからやって来て抱きついてくる。

 彼女は優秀なんだけどやる気にムラがあるし、スキンシップが激しい。中々接し方が掴めない生徒だ。


「ちょっとモニカさん! また貴女は師匠にベタベタと!」

「え~? 今はみんなの先生でしょ~?」

「そうですがそうじゃないんですっ!」


 いつものように言い争いを始めるエマとモニカさん。

 二人は馬が合わないみたいでよく言い合ってるところを見かける。まあいつもマイペースなモニカさんに頑固なエマが噛みついているだけなんだけれど。


「エマ、そこまでに……」

「ちょっと! 師匠はどっちの味方なんですか!」

「ひえっ」


 恐ろしい剣幕に押される。

 するとモニカさんは僕を抱きしめる腕に更に力を入れる。


「ちょっと、先生怖がってるよ~? いやだね~?」

「な、何をしてるんですか!? うらやまし……じゃなくてはしたないですよ!」


 火に油をドバドバと注ぐモニカさん。

 怒ったエマを宥めるのには時間がかかった。

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