第10話 教え手
「……まさかプロフェッサーとお会いできる日が来るとは思いませんでした」
倒れたマグノリアさんは、五分ほどしたら目を覚ました。
さっきのことは夢だと思ったみたいで、目覚めて僕の顔を見た時は「ひぃ!」と驚いたけど、今は落ち着いたみたいだ。
「マグノリアさん、いや……『✟るしふぇる✟』さんとお呼びしたほうがよろしいですか?」
「ほ、本当に勘弁して下され……」
マグノリアさんはものすごい勢いで頭を下げて懇願してくる。
そ、そんなにこの名前が嫌なんだ。それなのになんでこんな名前をつけたんだろう。大人の考えることはよく分からないね。
「ところで支部長。師匠が教え手になるという話ですが……」
「ああその件か。もちろん許可しよう。プロフェッサー殿以上に教え手に相応しい方などおらぬ。儂が教えてほしいくらいだ」
エマが尋ねると、マグノリアさんはあっさりと許可を出す。
自分で頼みに来てあれだけど、本当に僕がそんなものになって大丈夫なのかな? 確かに魔法は少し詳しいという自信はあるけど、人に教えるなんておこがましくも思う。
「まさかプロフェッサー殿とこうして会える日が来るとは……まるで夢でも見ているようじゃ」
「あ、あの。そのプロフェッサーと呼ぶのは控えていただけますか? は、恥ずかしいので」
「これは失敬。そうですよな、プロフェッサーだということがバレたら良からぬことを考え近づいてくるものもいましょう。ウィル殿がプロフェッサーであるのはここだけの秘密ということにいたしましょう」
マグノリアさんは納得したように頷く。
ま、まあ納得してくれたならいいか。
「まずはウィル殿のお部屋を用意する必要がありますな。欲しい物があったらなんでも言ってくだされ。経費で落としますぞ」
「空いてる大きな部屋がありましたよね? あそこなんか師匠の部屋にいいと思うんですよね!」
「いや、あの……」
マグノリアさんの言葉に、エマがノリノリで乗る。
ああ、なんだか話がどんどん大きくなっていってしまう……。目立ちたくないからそういうのは最低限でいいのに。
「そうだ、お話していたギルドに保管してある本もお部屋に運びましょうか?」
「それはお願い」
僕はお目当てのものにすぐさま食いつく。
考えてみれば部屋が増えるのは悪い話じゃない。引きこもり先が増えるってことだからね。主張引きこもり先……うん、いいと思う。
「それでは早速手続きするとしましょう。ウィル殿がいてくださればこのギルドは安泰ですな!」
上機嫌に笑うマグノリアさん。
うう、ちゃんと役目を果たせるかな……?
◇ ◇ ◇
翌日。
僕はエマとともにまたある場所を訪れていた。
魔法使い育成訓練所。
ギルドから少し離れたところにあるその施設には、まだ若い魔法使いが集められていて、日夜魔法の特訓に明け暮れている。
そこに所属している生徒たちは、みんな優秀な魔法使いの卵だ。
僕はそんな彼らの前に立っていた。
「今日から新しく教え手となってくださるウィル様です。みなさん師匠の言うことはちゃんと聞いていくださいね」
エマにそう紹介され、僕は「よ、よろしくお願いします」とたどたどしく挨拶する。
生徒のひとたちが僕を見る目は様々だ。好奇、無関心、嫌悪。うう、緊張する。
ドキドキしながら生徒の人たちを見ていると、一人の生徒が手を挙げる。
「エマ、お前が優秀なのは知っているが……これはなんの冗談だ? 俺たちはガキのお守りをするためにギルドに入ったわけじゃないんだぞ」
その男子生徒は不機嫌そうに言う。
確かに彼の言うとおりだ。僕みたいなのに教わることはないよね……。
しかしエマはその男子生徒にとんでもないことを言う。
「だったら『決闘』して試してみましょうか、師匠が教え手たる実力を持っているかどうか」
「……上等だ。願ってもない」
男子生徒は恐ろしい笑みを浮かべる。
え、うそ。僕が戦うの?
「師匠、頑張ってくださいね♪」
エマは天真爛漫な笑みを浮かべながらとんでもないことを言うのだった。
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