第9話 ✟るしふぇる✟

「師匠、その名前は?」

「これはネットのあだ名ハンドルネームだよ。✟るしふぇる✟さんはネット初期からの住人で、よく議論を交わしたことがあるんだ。この魔法術式は最近✟るしふぇる✟さんがネット上に公開したものとよく似てるんだ」


 ✟るしふぇる✟さんはネットだと「我が灰色の脳細胞が恐ろしい……」とか「見よ、この完璧な計算式を!」とか言ってるから若い人なのかと思ってた。

 僕はその用語がよく分からないけど、よく彼は「中二病乙」と言われていた。何か病気なのかな、心配だ。


 それにしてもネットと現実でこんなに違う人もいるんだなあ。

 まあ僕もネットじゃプロフェッサーなんて呼ばれてるから、人のことは言えないけど。


「ど、どどどどうか儂の真名が『✟るしふぇる✟』であることは他の者には言わないでくれえ! あそこは儂が別人になれる唯一の場所なのじゃ!」


 マグノルドさん……もとい✟るしふぇる✟さんは涙を流しながら僕にすがってくる。

 こんな風に大人にされたことはないから正直怖い。


「あんなハンドルネーム使ってることがバレたらギルド員から白い目で見られる! なんでもするからそれだけは勘弁しておくれ!」

「あ、安心して下さい! 言いませんから!」


 必死に懇願するマグノルドさんを僕は宥める。

 よく分からないけどそんなにバレるのが嫌なんだ。だったら初めからそんな名前にしなければいいのに……と思ってしまう。大人は色々と大変なのかな?


 なんて思いながら宥めていると、ようやくマグノルドさんは落ち着く。


「取り乱してしまい申し訳ない……ところでウィル殿。儂の真名を知っておるとはお主もかなりの強者と見た。ぜひ真名ハンドルネームを教えてはくださらぬか?」

「え、えーと……」


 どうしようかと悩んだ僕は、まあ話してもいいかと結論づける。

 マグノリアさんはここの代表、知っておいてもらった方が後で面倒なことにならなさそうだ。エマももう知ってるしね。


「あの、僕は一応魔法通信網マジック・ネットワークの管理人をやってます」

「ほうなるほど、管理人を……って、なんじゃってえええええっっ!?!?!??!?」


 建物が揺れるほどの大きな声を出すマグノリアさん。

 み、耳が痛い。


「とととということは、もしやお主、じゃなかった、貴方様がプロフェッサー!?」

「は、はい。一応」

「そんなことが……」


 マグノリアさんはそう言うとふらっと倒れてしまう。

 急に大きな声を出したから疲れたのかな? 僕は肉体を魔法で強化して、マグノリアさんをソファまで運んであげるのだった。

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