第5話 魔法使いエマ・マリステラ

 私の名前はエマ・マリステラ。

 十五歳の若手魔法使いだ。


 趣味は魔法の研究とショッピング。それと友達と遊ぶことかな。

 不真面目に見られることもあるけど、魔法への情熱と知識は同年代に負けない自信はある。


 自分で言うのもあれだけど、私は昔から優秀だった。

 図書館で読めるような魔法の本は読み尽くしてしまった私は、ネットの世界に頻繁に入り浸った。

 そこで出会ったのが……師匠だった。


 師匠の話す理論はどれも新鮮で刺激的で独創的で……私はそれを聞く度に脳が痺れるような感覚を覚えた。

 師匠はネットの住人みんなの人気者だから中々相手をしてもらうことは出来なかったけど、隙を見つけては朝まで色んな話をした。


 魔導師ギルドに入った私は大人の魔法使いとも何人も話したけど、師匠くらい凄い人はいなかった。

 やっぱりあの人は凄い。私は師匠を世界で一番尊敬し、敬愛していた。


 いつだったか、私は師匠に聞いたことがある。


「師匠は表の世界でもやっぱり凄い人なんですか? もしかして魔導師ギルドの偉い人、とか」

「はは、違うよ。ぼ……じゃなかった、私はそんなたいした人じゃない。趣味で魔法を研究しているだけだよ」


 最初は謙遜だと思った。

 だけど調べれば調べるほど魔導師ギルドの中に師匠らしき人物はいないということが分かった。


 私は人の魔力が判別できる特殊能力を持っている。師匠の魔力はネットの中で僅かに感じることが出来たので、見れば一発で分かるんだ。

 だから魔導師ギルドの偉い人を片っ端から見ていったんだけどやっぱり師匠の姿はどこにもなかった。


 本当に師匠は表舞台にはいないんだ。そう思った私の行動は早かった。

 私は申し訳ないと思いつつもネットで師匠の位置を逆探知した。だけど当然ながら師匠の防御セキュリティは完璧で、そこにつけいる隙はなかった。


 だけど二年前、状況が変わった。


 ほんの僅かな期間だけど、師匠の防御セキュリティが弱くなった時期があったんだ。

 これは予想だけど、師匠は引っ越しをしたんだと思う。ネット環境を再構築する時、どうしても防御セキュリティは弱くなるから。


 私はその穴をついた。

 そして苦労の末……とうとう師匠に行き着いた。


 私はてっきり師匠は大人の男性かと思っていたけど、その正体は歳下の男の子だった。

 想像とは違ったけど、これはこれで……というより、むしろこっちの方がいい。こんなに若いのにあれほどの知識と知恵を持っているなんて凄すぎる。私の尊敬度は青天井だ。


 でもまだ幼いからか、それほど魔力は高くないように感じた。でも師匠はこれから大きくなるし、どんどん強くなっていくと思う。

 そう思っていたら……


「よし、じゃあ直すよ。『修復リペアー』」

「――――ッ!?」


 魔法を使う瞬間、師匠の中に隠された膨大な魔力を私は感じ取った。

 きっと他の人じゃ気づかないと思う。魔力に敏感な私だから気づけた。


 そんな私でも観測できたのはほんの一端に過ぎないと思う。それほどまでに師匠の魔力は大きくて、深い。

 普通の魔法使いの十倍や二十倍じゃきかない、とてもじゃないけど私が計り知れない。


「……すごい」


 私は魔力量だけじゃなくて、師匠の使った魔法にも驚愕する。

 師匠が使った『修復リペアー』という魔法は、その名の通り物を修復する魔法だ。


 折れた武器をくっつけて直したり、ヒビの入った壁を直したり、便利な魔法だ。


 だけど師匠の使った『修復リペアー』は桁が違った。橋の大部分はもう無くなってしまっているのに、なんとその部分を復元させてしまったのだ。

 こんなのありえない。完全に消えたものを復元させるなんてもはや魔法じゃない、それは神の業だ。

 おまけに師匠は橋の構造式を変換してその強度を上げていた。こんな魔法は聞いたことがない、多分師匠のオリジナルの魔法と思う。


「すごい。すごすぎる……!」


 初めて師匠と話した時に感じた、脳の痺れる感覚を覚える。

 やっぱりこの人は表舞台に出るべき人だ。その凄さを多くの人に認めてもらわなくちゃいけない。


「どうしたのエマ?」

「……いえ、なんでもありません。お見事な魔法だなって思ってただけです」

「そう? ありがと。さ、もう馬車に乗ろうよ」

「はい!」


 私は平静を装いながら師匠の後に続く。

 ああ、早く師匠の凄さをみんなにも知ってほしいな。

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