第6話 再びの帝都

「ウィル様、まもなく到着いたしますよ」

「ふあ……もうそんな時間?」


 ルナの声で僕は目を覚ます。

 窓から顔を出して前方を見ると、そこには大きな都市の姿があった。


 帝都オルニアータ。この大陸でも有数の大都市だ。

 都市の市場には大陸各地から様々な物が集まっていて、それを買いに多くの人で連日賑わっている。

 ちなみに人混みが苦手な僕は行ったりはしない。珍しい本とかありそうだから興味はアルんだけどね。


「許可証は」

「ここに」


 簡単な審査を受けてから、僕たちは帝都に入る。

 兵士は獣人のルナが入ることに少しだけ嫌そうな顔をしていたけど、ルナの持つ特別な許可証を見て態度を改めていた。


 うーん、まだ獣人への差別意識は残っているみたいだね。法律で規制されても人の心まではすぐには変わらないか。

 なんとかしてあげられたらいいけど。


「私は大丈夫ですよ、ウィル様」


 悩んでいると御者台に座るルナがそう声をかけてくる。

 どうやら何を悩んでいたのか見透かされてしまったみたいだ。恥ずかしい。


「えっと、私はここで降りますね! いっかい魔導師ギルドに顔も出しておきたいので!」


 馬車が少し進んだ所でエマがそう言う。

 魔導師ギルドには明日顔を見せることになっている。いきなり行ったら向こうも驚くから、事前に話を通しておくのは大事だ。


「分かった。泊まる所とかは大丈夫なの?」

「はい! 魔導師ギルドと契約してある宿屋がいくつかあるので、そこを使わせてもらおうと思っています! あ、師匠さえよければご一緒しますけど!」

「いいえ、駄目です」


 唐突に割り込んできたルナにより、エマの提案は却下される。

 押しの強いエマもルナには敵わないみたいで、すごすごと引き下がる。この数日で上下関係が出来上ってしまったみたいだ。


「明日の昼頃、魔術師ギルドの前に集合でよかったよね?」

「はい! お待ちしてますね!」


 エマは元気よく礼をすると、帝都の街並みに消え去っていく。

 本当に元気な子だ。



◇ ◇ ◇



 帝都の中を進むこと数分。

 僕たちはお目当ての家の前に着く。


 そこは小さな一軒家だった。大きさは以前の家と変わらないくらいかな?


「ここに住んでいいんだよね?」

「はい。帝都に戻った時にはここを使うようにと文に書いてありました」


 父上は僕が城にいたくないから戻らないのだと思ったみたいで、わざわざ帝都に家を用意してくれていた。父上の期待している使い方とは少し違うけど……せっかく用意してくれたんだ、使わせてもらおう。


 家の横に馬車を止めて、僕たちは家の中に入る。


「中も森の家と同じ様な感じだね」

「おそらく陛下がそうしてくださったのでしょう。これなら引っ越しをしても環境が大きく変わりませんからね」


 父上はそこまで考えて……いるんだろうなあ。

 ここまでされると申し訳なくなってくる。やっぱり帰ったほうがいいのかなと思ってしまうけど首をぶんぶんと横に振ってその考えを捨てる。


 城を出るって決めたんだ。帝都には戻ってきちゃったけど、その決断まで捨てるわけにはいかない。


「では私はお城の方に報告に行って参ります。帝都にいることはお伝えしておいた方がいいと思いますので」

「うん、わかった。ユリウス兄さんに会ったらよろしく伝えておいて」

「はい。かしこまりました」


 そう言ってルナは家を出ていく。

 それを見送った僕はさっそく自室と決めた部屋に入って引きこもると、ベッドに横になる。


「それにしても魔術師ギルド、かあ。いったいどんな所なんだろう」


 見知らぬ所に行くのは不安だ。

 でも僕は少しそれを少し楽しみにも感じていた。

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