第12話 虹輝角《アルコバレノ》
「……ふう」
なんとか魔族の人を倒すことに成功した僕は、一息つく。
どうやらカレンさんがたいぶ弱らせてくれていたみたいだね。
相手は強力な魔法を使うという魔族だ、もし本調子だったらもっと強い魔法を使ってきたと思う。
「ウィルくーん!」
魔族の人に近づこうとすると、後ろから僕を呼ぶ声が聞こえてくる。
振り返ると森の中からアスタロトがやって来る。そういえば置いてきたまま走ってきちゃったんだ。
アスタロトは小さな羽をパタパタと動かしながら移動している。足で走ればもっと速いと思うけど、悪魔としてそれは嫌みたいだ。
「ふう、やっと追いついた。魔族は……もう終わってたみたいね」
遠くに倒れている魔族の人を見て、アスタロトはそう言う。
僕が魔族をなんとか出来たことに驚きはないみたいだ。少しくらい褒めてくれてもいいのに。
「もう動けないとは思うけど、逃げられたら面倒ね。念のため縛っておきましょう」
「分かった」
僕とアスタロトは揃って倒れる魔族の人のもとに行く。
最後にはなった雷の魔法は、直撃させてはいない。ただ衝撃波は当たっているはずだから、ダメージはあるはずだ。
「う、うう……」
魔族の人は地面に這いつくばって呻いていた。
彼は僕のことを見つけると「ひいっ!」と声を出す。
「く、来るな! 化物!」
化物とは酷い言われようだ。
軽く落ち込んでいると、アスタロトが僕の後ろからひょこっと顔を出して魔族の人を確認する。
するとその人はアスタロトを見て「な……!」と驚きの表情を浮かべる。
「こ、この魔力は……もしかして貴女は我らが祖、悪魔では!? 私は貴女を探してここまで来たのです!」
彼は興奮しながら言う。
やっぱりアスタロトを探しにこの森まで来たんだ。危うく僕のせいで大変なところになるところだった。
「しかもその紅色の角、もしかして大悪魔が一人アスタロト様ではないですか!? まさか
確か悪魔の中には強い能力を持つ大悪魔が七人いて、彼らはそれぞれ独自の色の角を持っているらしい。
彼らの総称が
アスタロトに会えたことで魔族の人は興奮しているけど、対象的にアスタロトは冷静だ。
つまらなそうな顔で魔族の人を見ている。あんな冷たい目、僕は向けられたことがないので少し怖い。
「アスタロト様! 共に魔族の国へ行きましょう! 多くの者が貴女を待っているのです!」
倒れながらも必死に体を起こし、そう訴える魔族の人。
そんな彼に対し、アスタロトは短くこう返した。
「いや」
「……へ?」
想定外の返事に、魔族の人は間の抜けた声を出す。
まさかこんな必死に頼んでいるのに、こんなにあっさりと一蹴されるとは思っていなかったんだろう。僕も意外だ。
魔族にとって悪魔が祖であるのと同じように、悪魔にとって魔族は子孫だ。
少しくらい情があってもいいと思うんだけど。
「な、なぜ断るのですか! 私たちはこんなにも
彼の言葉から察するに、他の悪魔も魔族の国にいないみたいだ。
そんな中見つけた悪魔が大悪魔だったんだ。必死に勧誘するのも頷ける。
「私と来てくださいアスタロト様! そして私たちとともに魔族を繁栄させましょう! 貴女方のお力があれば人間や獣人など根絶やしにし、この大陸で魔族が覇権を取れるでしょう!」
魔族の人は熱弁する。
それを聞いたアスタロトは「はあ」と残念そうにため息をつく。
「……本当に下らない。
「な、なにを……」
「あなた達は魔法の殺傷力を如何に上げるかしか考えていない。でも魔法の本質はそこじゃないの。いつまで足踏みしているつもりかしら?」
「ち、ちが……私たちは……」
「違くない。他の
そう言ってアスタロトは僕の頭の上に大きな胸を乗っける。
こうすると楽らしくてたまにやってくる。やわらかおもい。
「そのガキが、そうだというのですか……?」
「ええ。この子は魔法というものをようく分かっている。魔法を武器としてしか見ていないあなた達よりよっぽどね」
そう言ってアスタロトは僕の頭から胸をおろした後、僕の頬に軽くキスをする。
ひいっ、魔族の人の目が怖い。
「あ、ありえない……人間が、人間が私を差し置いて悪魔に……」
「力に囚われた哀れな子孫よ。少し頭を冷やすことね」
そう言ってアスタロトは右手を魔族の人にかざす。
「
アスタロトの手から放たれる魔法の光。それを受けた魔族の人は、気を失い倒れた。
「アスタロト、今のは?」
「今のは記憶を操作する魔法よ。今日起きたことを丸ごと忘れさせたの。私のこととかウィル君のこととか知られていたら面倒でしょ?」
「へえ、そんな魔法があったんだ。ありがとね」
お礼を言うと、アスタロトは嬉しそうに笑う。さっきまで魔族の人に見せていた顔とは大違いだ。
どういたしまいて、と言った後アスタロトは姿を消す。どうやら魔界に戻ったみたいだ。
全てが終わった僕は、傷ついたカレンさんのもとに向かうのだった。
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