第8話 魔力探知
魔族は確か悪魔の末裔だと本に書かれていた。
ということはアスタロトの子孫ということになるね。
冒険者のカレンさんと別れた僕は、指で空に魔法陣を描く。するとそこに穴が空いて、そこから大悪魔のアスタロトが姿を現す。
「あら? どうしたのウィル君。こんな夜中にお姉ちゃんになんの用かしら?」
「実はアスタロトに聞きたいことがあって」
二年間の間に彼女、アスタロトとも仲良くなった。
なんでかは知らないけどアスタロトは僕を弟のように扱ってくる。あんまり甘やかしてくるのは恥ずかしいからやめてほしいんだけど、中々やめてくれない。
「実はね……」
僕はアスタロトに魔族のことを話した。
すると彼女はしばらく考えた後、もしかしたら……と口を開く。
「魔族がここに現れたのは、私が原因かもしれないわね」
「へ? どういうこと?」
思わぬ言葉に僕は驚く。
「魔族は悪魔の末裔。もしかしたら私の魔力を感じ取ってここまで来たのかもしれないわ。魔族は悪魔を信仰しているからね」
「……確かにそれはありそうだね」
ここバレンシアの森は平和な普通の森だ。魔族が訪れる理由なんて他に思い浮かばない。
だとしたら……僕のせいだ。僕が悪魔を召喚したから危険な存在がここに来てしまったんだ。
森の近くには町がある。もしそこに魔族がいったなら大変なことになる。僕のせいで多くの人が傷ついてしまうかもしれない。
それだけは……絶対にあっちゃ駄目だ。
「アスタロト。どうしたら魔族を見つけられる?」
そう尋ねると、アスタロトは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「魔族を倒すつもり? 怖くないの?」
「怖いよ。僕なんかがどうにか出来ると思っているわけじゃない。でも何もせずジッと待ってるなんて出来ないよ」
「ふふふ……ウィル君、私は貴方のその勇敢なところが大好きなの。ね、やっぱり私と一緒に魔界に来て暮らさない? ウィル君なら魔界の王にもなれるわ」
「今はふざけてないで方法を教えてよ」
アスタロトには何度も魔界に来るよう誘われている。
魔界に興味が無いわけじゃないけど、僕は今住んでいるこの国が好きだ。戻れる保証もないのに行く事は出来ない。
「私は本気なんだけど……分かったわ。魔族を探す方法ね。一番簡単なのは魔力を探知する方法ね。魔族は悪魔の末裔。当然その魔力の波長は悪魔に似ているわ」
「じゃあアスタロトに似た魔力を探せば良いんだね。でもすぐに分かるほど似てるの?」
「普通の魔法使いなら分からないかもしれないけど、ウィル君なら大丈夫。貴方の魔力感知能力は既に私を大きく上回っている。そこらの魔族じゃ貴方の目から逃れることは出来ないわ」
アスタロトは真面目な顔して適当な事を言う。
僕の探知能力が悪魔を上回っているわけがないじゃないか。甘やかし過ぎた。
「まあじゃあ……やってみようかな」
ふう、と息を吐いて集中。
五感を体の外に広げるイメージ。
体の外に出た感覚器官を細く、長く、蜘蛛の巣のようにそれを広げていく。
「…………」
探知の中に引っかかるのは小さな生き物ばかりだ。
あ、少し大きいのもあった。これは普通の人間かな? 一箇所に固まってるから町が探知範囲に入ったみたいだね。
もっと、もっと探知範囲を広げるんだ。
「普通の人間が探知できるのは家一件程度よ。ここまで範囲を広げられる人間が今までどれだけいたかしら。ふふ……本当に私は素晴らしい人に召喚されたわね」
アスタロトが何か言っているけど、それを気にしている余裕はない。
今は探知に集中しないと。
「ここにもいない……ここにも……ここにも……いた」
ここから西に進んだ森の中。そこに二つの魔力反応があった。
一つは人間のもの。この感じはもしかしたらさっき出会った冒険者のカレンさん、かな?
そしてもう一つの魔力は、明らかに人間とは違う感じがした。
この魔力反応はアスタロトのものに似ているように感じた。間違いない、これが魔族の魔力なんだ。
二つの魔力はぶつかったり離れたりを繰り返している。これはもしかして……
「二人はもう戦っているのかもしれない。急がなきゃ……!」
「ちょ、ウィル君待って! 私も行く!」
僕は脇目も振らず駆け出す。
お願い、間に合って……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます