第2話 初めてのダンジョン


〜〜ひとえ視点〜〜


 私はバゴーザーのバイクに乗っていた。


ギュゥウウウウウウウウウウン!!


 とにかく早い。

 思えばバイクなんか運転したことないし、とにかく早く感じるよね。


 突然、携帯が鳴る。


「誰だろ?」


『はぁ〜〜い。ひとえ〜〜』


「母さん!? 携帯使えるの?」


 母さんは半透明の残留魔力体だ。


『地下室から出なければね。電話くらいはできるわよ。あそうそう。片手運転は危ないからね。ハンドルの所にスマホを立てかける所があるからそこに置きなさい』


「あ、うん」


 ピッタリ収まるな。


『ダンジョンに入る準備は整えたかしら?』


「あ! そういえばしてない!!」


 やっぱりポーションとかキャンプ道具一式とかいるよね……。


『あなたに必要なのはカメラよ』


「え? なんで??」


『探索者といえば今の流行りは配信だもん。配信の広告料金が発生すればダンジョン内のアイテムより儲かることだってあるんだから』


 そうなんだ。


「でもさ。私、カメラを買うお金なんてないよ?」


『お母さんの遺品にカメラがあったでしょ。それを使いなさいな』


「ああ! なるほど!」


 私はバイクで家に帰った。


「いよし。んじゃ、カメラゲットォ。……は、いいけどハンディカムは不味いよね?」


『首にひっかけるネックレス状のカメラがあるからそれを使いなさい』


 なるほど。


「スマホとカメラが連動しててね。配信モードにすると配信画面をスマホで確認しながら撮影ができるのよ」


 おおーー。なんかすごい。


「母さんがアドバイスしてくれるなら色々楽だね。へへへ」


『でも配信中は電話できないわよ?』


「あ、そっか!」


 そうなると、母さんのアドバイスが受けれるのは地上だけか。


 母さんの遺品にはダンジョン探索に便利な道具が山ほどあった。


「でもさ。これ、全部持っていくのは至難の技だよね。バゴーザーでテントを運ぶのは大変そうだし」


『いらないわよ。カメラだけで十分』


「え? なんで??」


『ま、行けばわかるわ』


 うーーん。それは不安があるな。

 まぁ、ヤバそうだったら直ぐに引き返せばいいか。

 よし行こう。


 私はバゴーザーを走らせる。


 えーーと、確かダンジョンの位置がわかる能力があったよね?


「ダンジョンサーチ……だったかな?」


しぃいいいいいん……。


『燃えボイスよ!』


 ああ、そうだった。

 魂を込めて叫ばないと能力が発動しないんだよな。


「バゴーザー! ダンジョンサーチ!!」


『ウマ!』


 私の眼前にマップが浮かび上がる。

 この能力は周囲1キロのダンジョンをサーチできるらしい。


「おお! この光ってるのがダンジョンか。馬のマークが私たちね」


 ダンジョンは毎日出現したり消えたりしてるからな。

 この能力は便利だな。


 さて、どこに行こう?

 近い場所にダンジョンがあるけど……。


「これってダンジョンレベルとかあるのかな?」


『勿論あるわね。でも、バゴーザーのレベルに適したダンジョンしか表示されないから安心しなさい』


「あ、そうなんだ!」


 んじゃあ、バゴーザーはレベル1だから初級ダンジョンだな。

 ふふふ。どうせ簡単だろう。チュートリアルってやつね。


「んじゃあ、近くのダンジョンに行こう!」


『ウマ!』


 バイクを走らせると20メートルほど先にダンジョンの入り口が見えた。

 それは地下鉄の入り口のように盛り上がる。横幅は3メートルほどだろうか。

 そんなに大きなダンジョンではなさそう。


 カメラの電源を入れようかな。


「んじゃあ変形を人型に戻した方がいいよね」


 と息を吸い込む。


『待ちなさい。このまま行っても問題ないから』


「ええ? バイクモードだよ!? ダンジョンって下り坂じゃないの?」


『んーー。階段かも』


「じゃあ尚更じゃーーん!!」


ポチ!


 配信スタート!


ガタガタガタガタガタガタガタッ!!


「ひぃいいいいいいい!!」


 いきなり事故だからぁあああ!!


「ってあれ? なんか転けないぞ?」


ガタガタガタガタガタガタガタッ!!


「な、なんか走行が安定してるな」

 

『ウマ!』


 ははは。これは頼もしい。


 その時である。


バダーーーーーーン!!


 大きな物音が鳴り響く。


「何々!?」


 真っ暗じゃん!


「えええええ!? ちょっとどういうことぉ!?」


 振り返ると入り口は閉まっていた。


 階段の踊り場で急停止。


キキキキィイイイイイイッ!!


「ええええええ!? 引き返せなくなったぁあ!!」


 暗いしどうしよう?

 

 と、思うや否や。

 バゴーザーの目がピカーー! っと光った。


『ウマ!』


「おおお。松明いらず」


 でも、引き返せないってぇえ。

 今は配信中だから、スマホがカメラと同期してる。


「母さんのアドバイスは聞けないのか……」


 ま、まぁ、初級ダンジョンだしな。

 

『ウマ!』


 それにバゴーザーがいるから大丈夫か。

 ダンジョンボスを倒せばダンジョンは消滅するって話だしね。


「よし行こう!」


『ウマ!』


 右グリップを回す。


グォオオオオン!!


 あははは。ダンジョンをバイクで進むなんて前代未聞だな。


ガタガタガタガタガタガタガタッ!!


「あ、ちょ! ここの階段、急だってぇ!!」


『ウマ!』


 いやいや、流石に無理無理ぃいい!!


「うわぁあ!! 壁だぁああああ!!」


『ウマ!!』


 すると、バゴーザーの前輪は馬の前足となって壁を蹴って旋回した。


ギャンッ!!


「ええええええええ!?」


 すごい!!


『ウマ!!』


「ははは。こりゃいいや。めちゃくちゃ速いし。なんかもう地下3階くらいじゃないかな?」


 速すぎてモンスターにも遭遇しないしね。

 

 などと思っていると目の前に豚の顔をしたモンスターが立っていた。


「うわ! 出たぁあああ!!」


 驚きのあまりバゴーザーを人型にするのを忘れて突っ切る。


ガツン!!


 モンスターは吹っ飛んだ。


「吹っ飛ばしたーー!!」


『ウマ! レベルアーープ!!』


「レベル上がったぁあああ!!」


 流石はチュートリアルダンジョン!


 馬の口から女性の音声が流れる。


『レベルが1から2に上がりました。能力、チェーンフィスト レベル1を覚えました』


 この子メスなのかな?


 まぁいいや。早速、確認してみよう。


 眼前にステータス画面が表示される。




 ○ 鎖拳チェーンフィスト レベル1

 鎖付きの拳が敵目掛けて飛んで行く。




 ふむ。

 攻撃能力みたいだな。


 でも、必要あるのかな?


「うわ! またモンスターだ!!」


ガシン!!


「轢いたぁあ!! 攻撃能力必要ねぇ!! あ、またモンスター!?」


ガシン!!


「また轢いたぁあ!!」


『ウマ! レベルアーープ!!』


「レベル上がったぁあああ!!」


『レベルが3に上がりました。能力、ダンジョンデータ レベル1を覚えました』



 ○ダンジョンデータ レベル1

 ダンジョン内の情報がわかる。

 現在表示できる情報。階層。


 

 え? 階層だけ? 

 な、なんかしょぼいな。

 まぁ、まだレベル1だからいいか。

 きっとレベルが上がったら色々な情報がわかるんだろう。


「あ、モンスター」


ガシン!!


 この調子でダンジョンを進んだ。

 モンスターを30匹以上轢き倒すとようやくレベルが4になって新しい能力を覚えた。



 ○モンスター図鑑 レベル1

 モンスターの名前だけわかる。



 ふむ。名前だけってしょぼいでしょ。

 これはハズレっぽいな。

 まぁ、これもレベル1だから上がればもっと使えるようになるのかも。

 

 それにしても快適だな。私はバイクに乗っているだけだからね。

 この調子ならダンジョンの最深部まで簡単に到達しそうだ。


 眼前には大きな門がある。


 なんかボスっぽい。


「バゴーザー! ダンジョンデータ!」


『ウマ! ここはダンジョンの最深部。40階ボスルーム前です』


 ふおおおおお!

 まだ20分くらいしか経ってないと思うけど、あっという間に到着したーー!

 これならキャンプ道具とかいらないな。

 それにボスルームってことは最後のボスがいる部屋だな。


「んじゃあ、門も突っ切るーー!」


バギィイイイン!!


 よし。

 

 部屋の中央にいるのがこのダンジョンのボスモンスターね。

 

 それは大きな体の真っ赤な竜だった。

 口からわずかな炎を漏らす。


 名前がわかんないから、


「バゴーザー! モンスター図鑑!」


 モンスターの前に名前が表示される。


『カースフレアドラゴン』


 なんか強そうな名前だな。流石はボスモンスター。

 よぉし、


「突っ切る!」


グォオオオオオオオオン!!


 しかし、弾かれてしまう。


「きゃあっ!!」


 バゴーザーのタイヤは馬の脚になって転ぶのを伏せいだ。


「あんがと!」


『ウマ!!』


 バイクの体当たりじゃ効果ないみたいね。

 傷一つついてない。

 んじゃ、これしかないよね。


「バゴーザー!  馬神バジンモード!」



ガキィイイイイイイイイインッ!!



『ウマ!』


 バゴーザーを人型にする。


 さぁ、ダンジョン探索らしくなってきたよぉ。

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