第1話 最強の相棒はバイク!?
この物語の舞台は、ダンジョンという地下迷宮がそこかしこに出現する日本。
道路には馬車と車が行き交い、普通の人間に混じって耳の尖ったエルフがスマホを使う時代。
16歳の女の子。
「母さん……。ううう……」
棺桶の中に眠る女の遺体は傷だらけだった。
その傷の深さは想像に絶する惨たらしさである。
「母さん! 母さん! 母さーーーーーん!! うわぁあああん!!」
最愛の母は、仲間とダンジョンに入り、たった1人だけで帰還した。その時の傷が原因で命を落としたのだ。
『ふふ……。お母さん、ドジっちゃった』
それが最後の言葉だった。
乾いた笑いと謎の言葉。
彼女はS級探索者である。
やり手の母がなぜ1人で帰還したのだろう? 仲間は全滅したのだろうか? と、
葬式から数日後。
そんな時だ。
『
突然響く、神秘的な声。
「か、母さんの声!? 母さんだよね!?」
それは先日、葬儀をした母、
『
「母さんどこ!?」
『ここよ。
地面しか見えない。
今は見晴らしのいい真昼間である。
「え!? 本当にどこぉ?」
『
「いや、本当にわからないんだけど?」
『こ、ここなんだけど……』
声は下の方から聞こえた。
「地面しか見えないけど?」
『ちょ、え!? なんでよ。地下への入り口があるでしょう?』
「え? ないけど?」
『なかったら困るからぁ。探してぇ』
「土しか見えないよ?」
『ああ! 蓋の上に土が乗ってんのよ。それ退けて!』
「ないよ〜〜?」
『こっちーー! 声のする方ーー!』
「ああ、そっちか……」
彼女が土を払うと大きな蓋が出てきた。
『
「……あのさ。開ける前に聞きたいんだけど……。母さんって幽霊なの?」
『ちょ、今、それ聞くぅ? 良いから開けなさいってぇ!』
「いや。幽霊だったらガチで怖いし」
『んもう、早く開けてぇえ。お願いだからぁああ〜〜』
いつもの母である。
安心した
「階段だ……」
『降りて来なさい。
「いや。今更、雰囲気作られても……。できればいつもの喋り方にしてよ」
『そ、そっちの方がドラマチックなのぉ!』
いつもの母である。
彼女が階段を降りると、そこには地下室が広がっていた。
壁には無数の呪文が描かれている。
「うわぁ。広ぉ。家の地下にこんな広い地下室があったとはねぇ」
『
「うわぁ、母さん!!」
そこにいたのは半透明になった母、一香の姿。
「ぎゃああああ! やっぱり幽霊じゃん!!」
『ちょ、違うわよ! どこを探せば巨乳の美人幽霊がいるのよ!!』
「た、確かに……」
ポヨォオン。
一香の巨乳は揺れていた。
因みに
赤い髪と燃えるような赤眼。母譲りは彼女のお気に入りである。
「んで。幽霊じゃないならなんなの?」
『残留魔力体よ』
「なにそれ?」
『この部屋の壁に描かれてる呪文の効果でね。お母さんの意思が具現化しているのよ』
「な、なんかすごいね」
『お母さんはダンジョンの探求者だったでしょ。なにかあったら
「じゃあ、私のために?」
『勿の論よ』
「母さん……」
「早く成仏してください」
『なんでよ!』
「違うの?」
『供養を求めてこんな場所作るかーーい!』
「ああ、確かに」
『あなた身寄りがないでしょう?』
「うん。孤児院に行くこと考えてた」
『そうよね。それにあなたは頼る友達もいないボッチだしね』
「やめてよ。娘をガチでディスるのは」
『あなたが小学校の頃。お誕生日会を開いて欲しいって言うから、家で用意をしたことがあったでしょ? あの時は誰1人来なかったわよね』
「うわーー! やめて黒歴史!」
母と娘は2人暮らしなのだ。
『ふふふ。あの時は2人で誕生日会をやったわよね。6人分のホールケーキをお腹いっぱい食べたっけ』
「んもう。恥ずかしいよーー」
『いいのよ。お母さんもボッチだったしね』
「ははは。血だね」
『ふふふ。でもね。お母さんは、実力だけはあったからね!』
「S級探索者だもんね」
探索者とはダンジョンの探索を行う者のこと。
S級は最上位等級である。
『お母さんには、その遺産があるんだから!』
「い、遺産!? お金があるなんて聞いてなかったよ!? この一軒家だけだと思ってた!」
『ふふふ』
「お金があったら全て解決だよ!! お金お金ーー♪」
『ふふふ。お金はないわ』
「えええ!? んじゃあ、もう終わりだよ。この世はお金が全てなのにぃい!!」
『荒んだ考えはやめなさい。お母さん的指導!』
「じゃあ、どんな遺産なのよぉ?」
『ふふふ。これよ!!』
と、一香が手差す方向には馬の顔をした戦士の石像が立っていた。
大きさは2メートルくらいだろうか。ずっしりとした重厚感がある。
「はぁ? な、なにこれ?」
石像の体にはよく見ると不思議な模様の装飾がされていた。
暗い場所に鎮座しているとシンプルに恐怖だろう。
『私はこれに全財産をかけたの!』
「終わったぁあああ!! 母親が変な宗教やってるぅうう!!」
『ちょ、違いますぅ! これはゴーレムですぅ!!』
「ゴーレムぅ? あの石像モンスターのぉ?」
『そういうこと。正確には可変ゴーレムね』
「なにそれぇ?」
『お母さんがダンジョンで集めたレアアイテムを結集して作った最高傑作よ』
「えええええ……。お金が良かったぁあ」
『的確な胸の内を吐露しすぎぃ。我が子ながら愛しいわね。まぁ、そう悲観することもないわよ。これはあなたの相棒になるのだからね』
「相棒ぅ? 私、一応、女の子だよ? こんな石像モンスターを相棒にする特殊性癖は持ち合わせていないけど?」
『お母さんだってないわよ』
「でも、母さんは父さんが死んで恋人がいないじゃない」
『石像で寂しさを紛らわす特殊性癖は持ち合わせていません! お母さん的指導!』
「んじゃあ、なんなのよ。これぇ?」
と、石像を触る。
『ウマ!』
「え!? 喋った!?」
『ウマァ……』
それはロボットのような特殊な音質だった。
『ふふふ。可変ゴーレム。
『ウマ!』
「なによそれぇ? 変なヒーローみたいな名前だしぃ。いや、敵キャラっぽいかも」
『まぁまぁ。慣れればカッコいい名前だから。バゴーザーは私とあなたの声だけに反応するのよ』
突然、一香は叫ぶ。
『バゴーザー! バイクモード!!』
「はい? 母さん??」
瞬時に馬顔の石像はバイクの姿に変形した。
「ええええええええ!? なによこれぇええええ!?」
『ふふふ。バゴーザー。バイクモードよ』
「バ、バイクになっちゃった……。可変ってこのことだったんだ……」
『どう? カッコいいでしょ?』
バイクのヘッドライトの部分は大きな馬の顔になっていた。
「いや、シンプルにダサくない!? これカッコいいの!?」
『この美学がわからないかな?』
「うん」
『これに乗ったらたちまちクラスの人気者よ』
「そうなるかなぁ? でもさ。私、免許ないよ? 乗れないじゃん」
『ふふふ。これは馬だから免許はいりません。勿論、ヘルメットもね!』
「おおお! そのための馬顔なんだ!」
『動力源は内在魔力だからね。定期的に魔晶石の補給は必要だけどね』
「へぇ。ガソリンじゃないんだ」
『
「はいいい? いきなりすぎるよ! 訓練してないのにできるわけないじゃん!」
探索者は、ダンジョンに潜るために特殊な訓練をする。
それ専門の学校があるほどである。
『できるわよ。あなたはお母さんの子なんだからぁ』
ポヨォオン。と大きな胸を揺らす。
「……まぁ、遺伝してない部分もあるけどね」
『バゴーザーを使えば簡単にダンジョン攻略が可能よ!』
「はい? バイクでダンジョンに入るの??」
『ふふふ。バゴーザー!
ガキィイイイイイン!!
「うわ! 人型に戻ったぁあ!!」
『これなら険しいダンジョンでもあなたと共に入ることができるわ。今のバゴーザーはレベル1よ。能力は3つだけね』
バゴーザーの前にステータス画面が浮き上がる。
レベル1の能力。
○
人型の戦士になる。
○バイクモード。
バイクに変形する。
○ダンジョンサーチ。レベル1。
周囲1キロにあるダンジョンを見つける。
『レベルはモンスターを倒せば上がるわ。1レベルが上がるごとに能力は増えるの』
「いや、でもぉ……。ダンジョンって毎年の死亡者がすごいじゃん。今や交通事故より多いんだよ?」
『バゴーザーがあれば無敵よ』
「ううーーん……」
バゴーザーは馬顔を
『ウマァ♡』
『ふふふ。もう好かれてるじゃない』
「ツルツルだね。ひんやり冷たい……。まぁ、なんか可愛い感じはするかな」
『じゃあ、早速、命令してみなさい。バイクに変形させるのよ』
「う、うん。んじゃ、やってみようかな……。な、なんか恥ずかしいね」
『ホラホラァ。はじめての変形よ』
「えへへ……。じゃ、じゃあ。えーーと。バゴーザー……、なんだっけ?」
『バイクモードよ』
「ああそうだった。バゴーザー、バイクモード』
しぃ〜〜〜〜〜〜ん。
「変形しねぇえええええ!!」
『ボソッと話すからよ。もっと力を込めて燃えなくちゃ』
「も、燃えるぅ?』
『そうよ。バゴーザーはあなたの燃え
「なにその声?」
『魂の籠った熱い叫び声よ』
「ええええ!? なんか面倒臭いなぁ」
『そうしないと命令か私語か判別が難しいのよ。アレクサだって反応に迷うでしょ? アレと同じよ』
「そういうもんかなぁ?」
『そういうもんよ! ささ、気合い込めて!』
「う、うん……。じゃあ……」
と息を吸う。
「バゴーザー! バイクモード!!」
ガキィイイイイイイイン!!
『ウマ!』
「うわ!! バイクになった!!」
『ふふふ。どう?』
「……うう。悔しいけどちょっとカッコ良かった」
『でしょでしょう! バゴーザーはあなたの言うことならなんでも聞くんだからね! 的確な命令を出せばあなたの代わりにモンスターと戦ってくれるわ』
「あ、なんかワクワクしてきたかも」
『じゃあバイクの運転だけどね』
「ああ、大体わかったよ」
『え?』
「ここが動力源でここが……アクセルでしょ?」
『すごい……。どうしてわかったの?』
「んーー。なんとなく」
『ふふふ。やっぱりあなたは私の子ね!』
普段から考察は好きだった。それが講じたかは不明だが、とにかくバイクの乗り方は理解できた。加えてS級冒険者の母の血が機能したのだろう。
「こういう作りだから……。うん。車体は安定してるね」
『ダンジョンは宝の山よ! バゴーザーで攻略すれば生活費なんてあっという間に貯まっちゃうんだから!』
「じゃ、じゃあ、孤児院に行かなくても自活できるってこと?」
『勿の論よ!』
「……母さん」
『ふふふ。さぁ、あそこの地下通路が裏山に繋がっているから、あそこから出なさい』
そう言うと、一香の姿は薄くなった。
「か、母さん!?」
それは空気に溶け込むように。
『さぁ、もう行きなさい。説明は全部済んだから』
ドンドン薄くなる。
「か、母さん!!」
『
そう言って消えてしまった。
「うわぁあああああ!! 母さぁあああああああん!!」
母親の思い出が走馬灯のように駆け巡る。
「母さん大好き! 友達みたいに思ってた!! 母さん! 母さん!! 母さーーーーーーーん!!」
『はーーい。呼んだかしら?』
「はぁあああああああああああああああああああああ!?」
『なによこの子は泣いちゃって』
「き、消えたんじゃなかったの?」
『消えないわよ? この地下室からは出れないけどね。残留魔力体はあなたと契約してるからあなたが死ぬまで消えないようになっているのよ』
「泣いて損した!!」
『さっきはなんて言ったのかな? お母さんもう一度聞きたいわぁ』
「あああああああああああ!!」
『もう一回言ってぇ?』
「絶対に言わないからぁああ!!」
『んもう。反抗期かしら?』
「うるさい! 行くよバゴーザー!」
『ウマ!!』
と、右グリップを回す。
ギュゥウウウウウウウウウウウン!!
「うわ! 速ッ!!」
一香はのんびり手を振った。
「安全運転でねぇ〜〜」
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