夢のクローバーを飾りたい。
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ぶんしょうはわかりやすさがいのちだ だからげんざいにいたるまで あらゆるほうほうがもさくされた こんなよみにくいぶんしょうは だれもよんでくれはしない 漢字が使われるようになった 意味のまとまりが明確になり どんな意味の言葉なのかが分かるようになった 句読点を置かれるようになった。話の切れ目が、見るだけで分かるようになった。
行を変えて一字下げることで、話題の移り変わりを見えやすくするようになった。
海の魚のような、多種多様な比喩を使って、読んでいる人のイメージを起こしてあげるようになった。
でも、それでも、漢字も句読点も改行も比喩も、誰かが考えたもので、僕はそれを真似ているだけだ。
そんなことを考えながら、僕はいつも通り席に着いた。君はそれを見て、向かいの席に座る。
「初めて僕は諦めてしまうかもしれないんだ。原因は諦められないからなのに、そのものを諦めてしまいそうなんだ。最近は全てが憎い。僕よりも面白そうな作品も、人気の曲も、テレビのニュースも、日めくりカレンダーの今日の一言も。在り来りなくせに、僕よりも良いことを言っているんだ。僕はなにも言い表せないのに、簡単に言い切っているんだ。許せない。ここまで書いてきた内容も、全くつまらない物にしか見えなくなってくるんだ」
「うん」
全てを聞き入れてくれる君に、僕は全てを吐き出したくなる。
「面白いんだろうか。僕の小説は。わざと小説らしさを減らしたんだ。文章をくずしてみたり、データを書き出すようにしてみたり。歌を書いたり、一人称と三人称をぐちゃぐちゃにしてみたりもした。でもなにをやっても無駄な気がして、全部パクリだって言ってしまった方が簡単な気なするんだ」
「ふん」
「そうだ! いっそ書き出してみるのはどうだろうか! ここがどの作品のネタなのか、逐一書き出すんだ! 一周まわって、面白い作品にならないだろうか!」
叫んで、ミルクを吸ってふやけたフレークをかきこんで、咳き込みながら嚥下して、僕は初めて俯瞰する。
君は変わらず菜食主義だ。きょうはセロリの葉。
「僕は何を言ってるんだろうな」
「うん」
君は忙しく鼻を動かす。そこから放たれるちょうどいいタイミングの息は、相槌にしか聞こえない。
「本当にごめんよ」
「ふん」
「うさぎに言いよることじゃないよな」
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