十節 冬休み

 冬休みに入って数日が経つと、倖成君の誕生日がやってくる。

 この日は、かさと倖成君と僕の三人で集まることになっていた。部活で忙しいであろう倖成君も、この日ばかりは集まると言ってくれた。僕たちはいつも通り、わざわざ最寄りではないスーパーに、ケーキ台を買いに来た。


「倖成くん遅くね?」


 かさが携帯を見ながら言った。


「まあちょっと距離あるからね。先に買ってようか」


 カートを引きながら、よく知らないキャラクターの絵がついた菓子や、知育菓子などをケーキ台の下にもぐらせていると、倖成君がきた。


「お、かさ久しぶりだねえ」


 倖成君が笑いながら言った。


「おう、倖成くん。相変わらず遅刻だ」

「それはもう仕方ない。ちゃんと来てほしかったらもっとはやく呼んでくれ」


「ははは、やっぱ倖成くんってやばいな」


 かさは心底楽しそうに言った。久しぶりの再開に、二人は舞い上がっているようだ。


「まあまあまあ、倖成くんの分も、ちゃんといいもの用意しておいたから」


 僕の言葉を聞いた倖成君は買い物かごを漁った後、顔を上げて真顔になった。


「ちょっと待って、一番大事なものなくない?」


 倖成君は、完全にふざけた状態になっていた。


「やっぱり要るよね」


 僕も乗った。今日は、思いっきりふざけたことをする日だから。


「もうー、絶対言うと思った」


 かさも口ではいやそうなことを言っているが、これを楽しみにしているのを僕たちは知っている。

 そうして僕たちは、飾り付け用のお菓子やクリーム等の必要なものと、そして僕たちの誕生日会には欠かせない存在であるケーキの具材を買って、スーパーを出た。今回は練り物だから、そこまでひどくはならないだろう。


 いつも通り倖成君の家で、ケーキを作りを始めた。変なところで細かいかさは、クリームを丁寧に塗る。固いお菓子を入れて切れなくなったり、ケーキにはふさわしくない食材が入っていたり、そういったなんでもないひとつひとつで、僕たちは笑いあった。

 僕は、何の気兼ねもなく心から笑った。この二人の前であれば、僕は心から笑うことができる。


 無事にケーキを食べ終わり、僕たちは片付けも済ませた。


「じゃあね、倖成くん。また会える日を楽しみにしとくわ」

「うん、また」

「僕はまた学校で。倖成くん、誕生日おめでとう」

「おう、ありがとう」


 僕とかさは倖成君の家を跡にした。お祭り後のような、熱を帯びた余韻があった。


「倖成くん、ほんとにすごいことするよね」


 僕はかさに向けて言った。


「それに乗る僕らもたいがいだけどね」

「間違いない」

「ほんとに、いい意味でおかしいやつしかいないわ」


 かさはずっと上機嫌だった。僕たちは夜空を眺めながら、肩を並べて歩いていた。

 のんびり空を見上げていると、かさが呟いた。


「なんかさあ、これからは、まことも倖成くんとも、そんなに会わないのが普通になっていくのかな。今はいつでも会える距離にはいるけど、進学とかしたらもうそんなに会えないよね」

「かさは京都だもんね」

「まあ、あの高校選んだことは間違いとは思ってないけど、でももし同じとこ行ってたら、もっと一緒にいられたのかなって」


 それは、僕も感じていた。倖成君は部活で忙しいとはいえ、昼休みや休み時間などであれば、僕はいつでも会いに行くことができる。中学では一度もクラスが一緒にならなかったかさとは、それがいつもだった。だけどそれも、今はできない。

 今は会うのにも、連絡をとらなければいけない。


「中学も、なんだかんだでけっこう一緒にいたもんね」

「まあでも、たぶんこんなもんだよな」

「うん、こんなもんなんだろうね」


 僕たちはまた少し笑い合った。こんなものでも、こうして会おうとするのだから、僕たち三人のこの関係はそうそう変わらないだろう。


「いいかげん寒くなってきた。コンビニでも寄ってかない?」


 かさは身をこわばらせながら呟いた。


「いいけど、もうちょっとあったかい格好してこればいいのに」

「はは、まあちょっと急いでたから」


 僕はかさのその言葉を、少しうれしく思った。急いでいたのは、僕だけではなかった。


「まあ、倖成くんは相変わらずだったけど」


 僕の言葉を聞いて、かさは吹き出した。


「はっはは、ほんと今日も倖成くんだったわ」

「ほんと倖成くんはいつでも倖成くんしてる」


 今日の倖成君は、学校で見るときよりも楽しそうだった。僕も、今日は本当に楽しかった。久しぶりに、三人で集まれてよかった。




――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。

 父親と兄との三人暮らし。


永野司ながのつかさ かさ

 小学校からの付き合い。

 僕をまこと呼ぶ。

 京都に住むために勉強をしているらしい。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。

 高校でもバレーボール部に入った。


今井俊いまいしゅん 今井くん

 僕と似た空気を感じる。

 親戚の家で暮らしており、少しだけ僕と境遇が似ている。

 曜子という人ともめたらしい。


小林正樹こばやしまさき 小林くん

 昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。

 室長なだけあってしっかりしている。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。

 部活をやっている。坊主頭。


森島もりしまさん

 今井君のことを教えてくれた人。

 冷静な人のようだが、意図はよくわからない。

 曜子という人の友人。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

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