三節 二者面談
高校での生活がすっかり日常になると、僕と友貴はそれぞれに気の合う人たちといるようになっていた。最初のころはよく話をした僕たちだったが、席替えと同時に友貴と話す機会はかなり減った。特段仲が良かったわけでもないので、落ち着くところに落ち着いたように思う。今は宿題を見せてもらったり、見せたりする、ほどほどな関係だ。
とはいえ、それも機会が減っただけで、関わりに垣根が生まれたというようなものでもなかった。それほどに、高校生活を共にする人たちは友好的な人が多かった。誰とでも気軽に話せる雰囲気が、クラス全体にある。これは、担任の江口先生が同じ目線で接してくるのも大きい。それもあって、僕のクラスである一年四組は、少しうるさい気もするが平和なクラスだった。
僕はいつも、授業が追わるとすぐに帰っている。しかし今日は先生との二者面談があったため、廊下の壁にもたれて自分の番を待っていた。少し待つと笑顔の友貴が出てきた。そのやわらかな笑顔は、友貴の特徴である坊主頭によく似合っている。
「あ、玉木くん、終わったよー」
「どんな話した?」
「なんか、当たり障りのない世間話だった。あと成績のことを少々……」
友貴は気まずそうに笑いながら言った。
「この前の数学?」
「さすがに今度はちゃんと勉強するよ。あ、じゃあ僕は部活行くから」
「うん、部活がんばって」
「ありがとう」
友貴は楽しそうに小走りで廊下を抜けて行った。それを見届けてから、僕は教室に入った。
先生は、事前に集めた僕の自己紹介シートに目を通しながら話し始めた。
「玉木くんは進学ってことで、考えてる感じ?」
「はい」
「うん。中間テストの点も高めだから、このまま維持していってもらえばいいかな。志望校とかは決まってる?」
「具体的にはまだですが、一応国公立を目指そうかなと思っています」
「ほうほう、じゃあ勉強は全教科頑張る感じで考えてると」
「はい」
「なるほど。まあでもまだ一年だから、このまま行けばそんなに気負うこともないかな。部活も入ってないし、時間はあると思うので、その時間を使って、今のうちから基礎をしっかり固めておけば、後々の苦労も減るので、このまま頑張りましょう。だから、成績については特に言うことはないね。勉強でわからないとか、わかりづらいところとかあったら気軽に聞いてね。僕でも、他の先生でもいいから」
「はい、わかりました」
「うん。クラスでも、ふつうに仲良く過ごしてるように見えるけど、実際どう? 馴染めてる?」
「……まあ、そうですね。友好的な人が多いので」
「元気すぎてうるさいくらいだけどね。えーっと、友貴と
「はい、友貴は中学も一緒なので」
「うんうん。他のクラスとか、他校の友だちとかはどう?」
「ああ、たしか七組だったと思いますけど、
先生が、終始余裕そうだった笑顔を少し崩した。
「へえー。えーっと、つかさって子はもしかして女の子?」
「あ、いえ、男ですよ。確かに、つかさって響きだけだと女の子の場合も考えられますよね」
「ああ男の子か」
先生は力を抜いて目線を下げた。僕の付き合いという表現が、そう思わせたのかもしれない。
「女の子のほうがよかったですか?」
「あ、いやどっちでもいいんだけど、最近の子は進んでるから、もしかしてと思って」
「先生って独身でしたよね。そういうのとかって縁ない感じですか?」
「えーっと、この仕事はね、楽しいしやりがいもあるんだけど、忙しいからさ、出会いがないんだよね。だから実は何回か実家に帰ろうと思ったこともあったりするんだけど」
「辞めちゃうんですか?」
「いやいや、辞めない辞めない。どうしようかなって思ったこともあるだけ。まあ僕に結婚はちょっと難しいかもねえ」
「先生は親しみやすいので、それほど難しいとは思えませんけど」
「そう言ってくれるのはすごくうれしいんだけど、実際はそうはいかないのよね」
「そうなんですか……」
僕が先生から視線を外して頷くと、先生は慌てて話し始めた。
「あ、ごめんごめん。僕の話になっちゃって」
「いえ、べつにいいですけど」
「ごめんね。じゃあ玉木くんは心配なしということでいい感じですかね」
「はい、僕からは特にない感じです」
「分かりました。じゃあ面談はこんな感じで。何かあったら、いつでも言ってください。解決できるかは場合によりますけれど、精いっぱい協力させてはいただきますので。今後ともよろしくね」
「よろしくお願いします」
僕は先生に頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそいろいろ話してしまって。じゃあ、次の人呼んできてもらってもいい?」
「はい、ありがとうございました」
面談は滞りなく終わり、僕はいつも通り一人で家に帰った。僕は夕飯の用意をしながら、江口先生との面談を思い出していた。江口先生と面談をしているときは、少しだけ友だちと話しているときのような感覚だった。
隠しているところは少なからずあるように見えたけれど、それでも僕には江口先生はいい人のように感じられた。
担任の先生が、やさしそうな人でよかった。
――――登場人物――――
中学時代はバレーボール部。
小学校からの付き合い。
中学時代は、僕と同じくバレーボール部。
二年間クラスも同じでよく話をした。
僕をまこと呼ぶ。
僕と似た空気を感じる。
昔やっていたゲームの話をした。気が合わないわけではない。
中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。
部活をやっている。坊主頭。
高校一年生のときの担任。担当科目は国語。
役者めいた話し方をする人。
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