第20話 「TK大学eスポーツ部」

 あの有名な門をくぐる。TK大学は日本中から優秀な学生が集まる大学だ。

 これからの日本を背負う、知の拠点。ここにいるだけで頭が良くなった気さえする。

 すれ違う人、全員からただならぬ雰囲気を感じる。

 きっと、なんらかの分野で一角の人物なのではないか。中には普通の人もいるんだろうがそんな気がしてしまう。


 テレビなどで見たことのある有名な建物の横を通り、キャンパスの奥地へ向かう。

 もう少しで裏門、という場所。そこに各部の部室や交流のための共同スペースのある施設があった。


 アポを取っていた部長の上杉さんに電話をかけると、出入り口まで迎えに来てくださった。


 ひょっとして、完全なる球体を目指しているのだろうか? という体型のかたで、大きな銀縁眼鏡をかけ、黒髪を短く刈り込んでいる。


 軽く挨拶を済ませ、そのまま部室を見せてもらえることになった。


「実は、我々は本格的な練習は土曜だけ行っているんですよ。協力関係にあるeスポーツ専門学校の施設をお貸しいただいてるんです」


 彼らの部室は、eスポーツ施設などではなく、本当にただの部屋だった。

 中央に簡素なテーブルを組み合わせたものがあり、その上に六台のノートPCが置いてある。


 五人の部員らしき方々がそのPCを使い、各々なにやらやっている。

 ゲームをやっている人もいれば、ただサイトを見ている人、動画を見ている人、なにやらテキストを書いている人など様々だ。


 失礼だが、ここがなぜいつも最下位争いを演じているかわかってしまった。

 そしてウチがいかに恵まれているか、思い知らされた。


 戦でも同じこと。力とは兵士の数、装備、兵站などがある。

 そしてそれらを集める、維持するのに必要なものは結局、軍資金なのだ。


 金がなければ勝てない。身も蓋もないが、ごく当たり前の話だ。


 しかし、彼らが決して恵まれない環境にあってもトップリーグに残り続けているのは確かなのだ。

 なにか秘密があるに違いない。

 それをスクリムで学ぶことができれば良いのだが。


「どうもうちの学生はゲームに理解がないというか、ただの気晴らし程度のものという考えのようで、eスポーツだなんてとてもとても。なんで新入部員勧誘にも苦戦しているさまでして」

「部員が少ないのはウチも一緒ですよ」


 TK大学は勉強一筋で受験戦争を勝ち抜いてきた猛者たちだ。

 おそらくご家庭でもゲームなどは厳しく禁止されていたのではないだろうか?


 対し、ウチの部員の少なさの理由は、まだeスポーツ部ができて日も浅く、実績もないからだろう。

 俺たちが活躍すれば、きっと部員は増えてはずだ。


「いやー、しかし、お連れのようなお美しい方もいらっしゃって、うらやましいかぎりです。ウチなんて女性部員は一人もいませんよ」

「はぁ」


 そういえばさっきからミアがおとなしい。

 見ると、表情こそ軽い微笑みを浮かべているが、なんだか仮面を貼り付けたような、嘘っぽい顔だ。



 上杉さんは終始、フレンドリーで、スクリムの話もこころよく受けてくださった。

 どこの大学もこんな感じなら助かるんだが。


 一仕事終えた俺たちは、有名なカフェで一服することにした。

 人気店だが、ちょうど昼のラッシュが終わったところらしく、店内は意外と空いている。


「マジ、あいつキモかった!」


 ミアはフタが外れてズレるほどの勢いで、カップをテーブルに置いた。


「上杉さんか? なんかあったか?」


 俺には悪い印象はまったくなかったんだが。


「気づかなかったわけ? ずっとアタシのことジロジロ見てきてさぁ。マジ無理なんだけど」

「そりゃ、ミアほど美しい女性なら男は誰でも見るだろ。慣れるしかないよ」

「っ! ……響介、よくそういうことサラッと言えるよね」


 褒めたはずなんだが、ミアは俺から視線を外し窓の方を向いてしまった。


「別に、おかしいこと言ってないだろ」

「もういいよ! それより、本当にあそことスクリムするわけ?」

「そりゃするよ。絶対に勉強になるぞ」

「……アタシ、見学でいい?」


 オンラインでゲームなら見られることも無いと思うんだが。

 何がそこまでイヤなのか理解に苦しむ。


「馬場先輩もいるし、大丈夫だけど、できればミアにも出てほしい」

「えー! なんでよ」

「実力から言えば、馬場先輩よりミアだからな。あとはチームにフィットするかどうかだけなんだ。そのためには一緒にゲームをやって、チーム慣れてほしい」

「まぁ、響介がそう言うなら……。っていうか、なんか響介が部長みたいね」


 それはまずい。

 俺はあくまで裏方だ。

 そんなことを部長の前で言われたら、不快に思われてしまう。


「いや、俺は部長にはとてもかなわないよ」

「そう? プレイはそうだけど、まとめ役としては良いセンいってると思うけど」


 おかしい。ミアは、もともとは部長のファンだったはずだ。

 これも《大軍師》の影響なんだろうか。


 王よりも民からの信頼が厚い臣がいてはだめだ。

 一見、良いことのように思えるが、そんなものは危険分子でしかない。俺が王ならば処分するだろう。


 いかにして部長に信頼され、部長を皆に信頼させるか。それこそが俺の今後の課題となりそうだ。

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