第19話 「俺の役目」
俺はミアに続き、他のチームメンバーとの面談を進めた。
まずは《大軍師》の影響下にある四人は終わらせたが、ミアと話し合った内容はうまく伝わったと思う。
あとは武田部長、内藤副部長、そして三条マネージャーだ。
このお三方、俺の予想ではかなりの難物だ。
武田部長を頂点として、非常に強固な信頼関係を築いている。
それは大変結構なんだが、そこに俺が割り込まねばならない。
武田部長はプレイヤーとしてもトップクラスで、人間としても人格者で信頼が厚い。
内藤副部長はその部長をサポートする役目だが、部長を立てて、自分は一歩引いている。
三条さんもそもそもは武田部長のファンということらしい。
俺はまず、武田部長と話す機会を得た。
部長からの信頼を得られれば、あとはドミノ倒しのようにあとの二人も篭絡できるとみた。
「で、相談というのは?」
相談、なんてものは口実だ。
きっかけはなんでも良い。
「お忙しいところご足労いただき、ありがとうございます」
場所はいつものカフェテリア。
落ち着いた雰囲気で話をするには良い場所なのだ。
「最近の若いもんにしちゃ、礼儀正しい奴だよ、山本は」
「いや、部長もお若いでしょうに」
俺など、中身は人生を一度終えた中年なのだ。
そりゃ礼儀もわきまえているってものだ。
「実は、相談ってほどのものじゃないんですが、ちょっと自分のプレイに自信がなくなっているんです」
これは嘘ではない。事実、先の大会で皆との差を痛感してしまった。
無論、ゲーム初心者である、ということはわかっている。
それにしても、このまま練習を続けたとて、大学在学中に彼らに追いつけるとは思えなかった。
「それはしょうがないだろう。山本は始めたばかりだからな」
「ありがとうございます。ですが、六大学eスポーツリーグも迫っているなか、俺にも何かできないかと思って考えたんです。それで、俺は相手の情報調べたり、そういう方面で役立てないかと」
それならば、俺にもやりようはある。
そして事実これは重要な役目だ。
「なるほど。話はわかった。確かに山本には合っているかもしれんな」
短い付き合いではあるが、さすが部長はすでに俺の適性を見抜いているようだ。
「ありがとうございます。そこで一つ提案なんですが、練習試合を組んでみてはいかがでしょう?」
「スクリムか。それは良いな」
「スクリム?」
「ああ、すまない。英語の“scrimmage”の省略形なんだが、練習試合という意味でeスポーツ界隈では使われるんだ」
「なるほど、勉強になります」
「で、相手は?」
「はい。できれば自分たちよりちょっとだけ強いところが望ましいかと。それで、先日イベントで対戦したKO大学はいかがでしょう?」
「KOは昨年、リーグ制覇した強豪だ。ちょっとだけどころじゃなく強いぞ」
「そうなんですか? イベントでは接戦に見えましたが……」
「あれは相手がほとんどサブメンバーだったからな。本気で来られたら相手にならんぞ」
「なるほど。ならばそのサブチームに申し込めば……」
「いや、それも難しいかもな」
「なぜです?」
「あそこは、なんというか、他の大学を下に見ているから。あまり友好的ではないんだ。イベントでは出演料を払ってやっと来てもらったんだから」
「出演料!?」
まさか、アマチュアチームが出演料を取るとは驚きだ。
KO大学はお坊っちゃま校とはよく聞くが、そういう人々なのであれば、あまり絡まないほうがいいかもしれん。
「でしたら、部長のおすすめはどこでしょう?」
「少し上、ということなら五位だったTK大学じゃないか? 私も付き合いはないのでどういうところかはよく知らないんだけどな」
「なるほど。でしたら、俺が視察してきます。いけそうなら、そのまま交渉もしてみますよ」
「おお。それは助かる。頼めるか?」
「おまかせを」
おそらく、交渉事なら部の中でも俺が一番だろう。
人生二回目の経験を活かすときが来たようだ。
※※※
学食はENERGY CHARGER & DINERという名で、こちらもカフェテリアに劣らず洒落たデザインの店である。
天井はパイプ、コード類がむき出しになっている。床と天井はシルバー系統で塗装されており、壁などは赤を基調とした配色になっている。
食券はタッチパネル方式の独自端末を使用。各種キャッシュレス決済にも対応している。このあたり、さすが理系の大学という感じがする。
「で、いつ行くわけ?」
ミアは俺の隣で、俺が食うのを頬杖を付きながら見ている。
食わないのかと聞いたが、ダイエット中だそうだ。
「相手方にアポを取ってからだな」
「んじゃ、決まったら教えて」
「一緒に来るのか?」
「ダメなわけ?」
「いや、そういうわけじゃないけど、別に遊びに行くわけじゃなし、面白くはないと思うのだが」
「そんなの、行ってみないとわかんないじゃん」
「まぁ、そうだが」
何が目的なんだ? ミアを見ても、なにか子犬が餌を食っているところを観察するかのような目で俺を見ている。
よくわからない女だ。
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