第21話 「初スクリム」
TK大学とのスクリムはオンラインで行われる。彼らの都合に合わせ、土曜の午後からとなった。
肉体を使うスポーツであればオンラインではできないので相手を招くか、相手のところへ赴かねばならない。
移動が必要ない、これはeスポーツの素晴らしいところの一つだろう。
だからスクリムを気軽に申し込めた、というところはある。
こちらのメンバーはアタッカーの武田部長と高坂。ディフェンスは馬場先輩。サポートは内藤副部長と秋山先輩だ。
夏からの六大学eスポーツリーグはこのメンバーがスタメンとなる予定である。
ここにミアと山県そして俺がサブとして加わるわけだが、ミアは今すぐレギュラー交代してもおかしくない技量はあると思っていた。
しかし、今回は本人の希望もあって見学である。
まずは作戦会議ということで、スクリムの前日、俺たちはesportsバトルグラウンドに集まっていた。
「TK大学はどんな感じだった?」
部長からの質問を受け、俺はTK大学を視察して感じたことを思い返す。
間髪入れず発言したのはミアだ。
「なんっかキモい奴らでした」
いや、ミア。そういうことじゃないと思うぞ。
「おそらくですが、統制の取れたチームだと思います」
「へぇ? なんでそう思った?」
「部室を見た印象なんですが、設備はそれほどでもなかったです。ウチのほうが圧倒的に良いですね。ただよく見てみると、非常に片付いているんですよ。例えば本棚の本も、ジャンル別、作者別に理路整然とならんでいました。それに部員の私物もほとんど見られませんでした。普通、学生だけの集まりだともっと乱れるものなんですけどね。つまり、部長の影響力が強く、チームメンバーはそれによく従っている、そんな気がしました」
俺があの部室を見て感じたもの。それは前世のほうで馴染み深いものだった。
俺たちが部室に入ったとき、PCに座っていたメンバーたちは軽く会釈をしただけで、すぐに自分たちの作業に戻った。
各々が好きにやっているように見えたが、実はそうではない。
部長を見たときの彼らの反応には緊張感が漂っていた。
下士官のもとへ将校が視察にきた、まるでそんな感じだ。
つまり、彼らは軍隊に近い組織形態なのだ。
上が強い力を持ち、下は絶対服従。
軍隊と聞くと拒否反応を示す人もいるが、それは強い組織を作る上では手っ取り早い方法だ。
どの国でも軍隊という組織が似たりよったりなのはそういう理由なのだ。
「なるほど。それで何か作戦は?」
「今回は初めてですし特には無いです。勝つのが目的ではありませんので。まずはスクリムに慣れることを目標にします。六大学eスポーツリーグの先輩に胸を借りるつもりで挑みましょう」
「うん。それがいいな」
部長は俺の意見でもちゃんと聞いてくれる。それが聞き入れるべきものと判断すれば躊躇なく採用してくれる。
それが武田部長の尊敬すべき点だ。
組織の意思決定スタイルにはトップダウンとボトムアップがある。
どちらにもメリットとデメリットがり、俺はどちらにしてもあまり偏るのは良くないと思っている。
たとえトップダウンだろうが、下の意見をきちんと聞くことは大事なのだ。
ボトムアップでもトップがボトムに情報を取りに行かねば、自然とは上がってこない。
最終的な意思決定はトップがするものだ。
だがその過程は密室で行われてはいけない。
オープンであることが下の者を安心させるのだ。
武田部長は、ただゲームが上手いだけではない。リーダーとしての資質も十分にあると俺は思う。
この人の下についていけば間違いないだろう。そう思わせてくれる人だ。
※
スクリムは特に問題もなく終了した。
結果は負け。だが実りの多いスクリムだった。
俺はつぶさに各人のプレイを観察できた。おかげで課題もなんとなく見えてきた。
あとはそれをどう理解してもらうか。改善のためにどう動いてもらうか。
新米の俺の意見をどうやって聞いてもらうかが問題だろう。
終了後に反省会が行われる。
椅子を輪にし、チーム全員とマネージャー三条さんが座る。
そこで俺は一つ、提案してみることにした。
まずは先輩たちのお話を聞く。それから俺が発言できる番がきた。
「今回のスクリム、皆さんとても良い動きをしていたと思います。まずは――」
いきなり問題点を指摘されて素直に聞ける者は少ない。
まずは各人の良かったところを評価する。
そうやって空気を和ませたところで本題だ。
「今回で非常にスクリムが勉強になると思ったんで、他の大学にも申し込みに行こうと考えてます。それで、せっかくですから、いろんな戦法を試してみたいと思ってるんです。具体的にはこれからまとめてきます」
「戦法って、例えば?」内藤副部長は顎をさすりつつ言う。
「そうですね、例えば皆さんの使用するタレントを大胆に変えてみるとか」
この〈
そしてゲーム中であってもタレントを変えることができるのだが、皆はそれをしなかった。
使い慣れたキャラを変えないのも利点はあるが、俺はそこに一つの課題があると感じていたのだ。
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