第17話 「大軍師の影響」
予想通り、俺たちはトントン拍子で大会を勝ち進んだ。
「なんだろ、いつもより調子が良い気がすんだよね」
エナジードリンクを片手にミアが言う。
それは気のせいではない。しかし、言っても信じてもらえないだろうな。
「拙者もでござるよ。いつもより、こう、エイムがビシッと決まるというか」
山県も毎試合キルを重ね、上機嫌なようだ。
「僕もだ。普段より周りがよく見える」秋山先輩も同意を示す。
「オレも。今日は体が軽いんだよなぁ」馬場先輩は右腕をぐるぐると回す。
準決勝までの一時の休息。
勝っているときのチームというのは雰囲気が良い。
これがさらに好調を招く。そういう好循環に入るのだ。
これも《大軍師》のおかげだ。
この力は影響下にある者の能力を底上げさせるもの、のようだ。
能力向上は自分自身にも及ぶ。
具体的にどの程度の影響があるかは測定が難しい。
感覚的には二割増しというくらいだろうか。
もちろん、肉体的な限界というものがあり、それを簡単に超えられるわけではない。
仮に100メートル走のタイムが10秒フラットの者がいたとして、この才の影響下にあれば8秒になるか、といえばそんなことにはならない。
せいぜいが0.1秒から0.2秒というところだろう。
しかし、たったそれだけの差が、とんでもない高揚感を生み出すのである。
「さ、そろそろ準決勝。こっからは今までみたいに、簡単には勝たせてもらえなくなるしょう」
俺は手をたたき、皆の注目を集めて言った。
俺はよく知らないのだが、残っているチームにはアマチュアでも名のしれたプレイヤーが混じっているらしい。
「確かに。何か策は?」秋山先輩はいつものように眼鏡の位置を治しながら言う。
「いえ、特にありません。俺たちは所詮、挑戦者。負けてもともとです。胸を借りるつもりでいきましょう」
「ちょっと、そんなんで大丈夫なわけ?」ミアは唇を尖らせ、不満げだ。
「普段の練習通りにやろう。というか、ここで急にいつもと違うことをしようとしても無理だよ。そんなものが通用する相手じゃない。それに、ここで勝つことは俺たちの目的じゃないんだ。やれるだけやって、自分たちの弱点を見つける。そういうつもりでやろう」
そろそろ勝つのは厳しいだろう。なにせ相手の情報がない。
事前の準備期間がもっとあれば……。
「しかし良いのか? せめてリプレイくらい、見直したほうが……」
そう言う馬場先輩の視線の先には部長と副部長、三条さんがいた。
俺たちから離れた席で三人、一つのディスプレイを見て何か喋っている。
先程の俺たちの試合のリプレイを見ているのだろうか。少なくとも馬場先輩はそう思っているようだ。
このゲームには素晴らしいリプレイ機能が搭載されている。
試合内容はすべて記録され、簡単に見返すことができる。
カメラを好きに動かし、全体像を見ることもできるし、任意のプレイヤーの視点でみることすらできる。
このあたり、eスポーツが普通のスポーツより勝っている点だろう。
こんな便利なものがあれば、研究もはかどるというものだ。
部長達お三方は俺たちに何も言ってはこない。
あくまで傍観者の立場を貫くようだ。
「いえ。大会中に反省会をするのは良くありません。それは全てが終わってからにしましょう」
そんなことをすれば、せっかくの良い雰囲気が台無しだ。
プレイの見直しは重要だが、場合によっては厳しい指摘をしなければならないこともある。
大会中にやるのはご法度なのだ。
「今は休息が重要です。お好きなようにリフレッシュしてください」
「おう」
馬場先輩は椅子の背もたれを限界まで倒し、目を瞑った。
秋山先輩はテーブル席で缶コーヒーをすすっている。
ミアと山県はPC席に戻り、何やら言い合っている。
これが各々の集中方法なのだろう。
俺は特にすることもないので、背筋を伸ばすなどストレッチをして時間を潰した。
※
全員が一列に並び、部長がその前に立っている。
「今日の大会、どうだった?」
部長の問いかけに秋山先輩が答える。
「このメンバーでベスト4は、練習期間も考えれば十分な結果ではないでしょうか?」
「ふむ。山本はどうだ? 山本がリーダーだったんだろ?」
「ええ。秋山先輩と同じく、結果には満足です。この即席チームでベスト4なんですから。これもチームメイトのおかげです」
まずは褒めること。これが大事だ。
「そうですね。武田部長のいらっしゃらないこの面子でこの結果は上等じゃないですか?」
ミアもうっすら笑みを浮かべ、満足げな表情だ。
「何か課題は見つかったか?」
「ええ。しかし、今はまだ指摘するときではないかと」
アレがダメ、コレがダメ、なんてことを皆の前で言うべきではない。
俺は後日、一人ひとりと会談するつもりだ。
「そうそう! 今日はパーッと打ち上げしようよ!」
三条さんが声を張り上げると、部長もやれやれと言った顔になるが、反対ではないらしい。
ということで、俺たちは近所の居酒屋へと場所を移したのだった。
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