第15話 「孤立作戦」

 俺はそれを見て、山県に合図を送る。


【Kyo:今だ!】

【GarbageGadget:御意!】


 その瞬間、ミアの背後から、城壁が地面からタケノコのごとくニョキニョキと生えてきた。

 山県の使うタレント、〈メイファン〉のアビリティである〈グレートウォール〉である。


 それは〈メイファン〉の時空を操る装置を使い、古城の城壁を一部分だけ転送させるというもの。

 城壁は高さ3メートル、幅は8メートル。一定時間で消えるが、その間は障害物として機能し、あらゆるものの通過を防ぐ。

 このアビリティゆえに、〈メイファン〉は守備的と言われている。


 しかし、ものは使いようなのだ。


【Miu:ちょ! 回復! 何これ! 下がれない!?】


 そう、〈グレートウォール〉が防ぐのは“あらゆる”ものだ。

 それは味方サポートからの回復も届かないことを意味する。当然、タレントの移動も妨げる。


 ディフェンスがいかに倒されにくいとはいえ、サポートからの回復がない状態で集中砲火を受ければひとたまりもない。

 そしてディフェンスはチームの要だ。


 五人のうち、ディフェンスは一人、アタッカーとサポートは二人と決まっている。

 一人しかいないのでディフェンスは他のロールより高い能力を持っているのだ。

 ゆえにディフェンスは最初に倒されてはいけないと言われている。


 ミアがキルされると同時に、タイミング良く山県の出した〈グレートウォール〉も消えた。

 こうなれば相手チームは最前線で体を張るべきディフェンスがいない状態だ。


 人数もこちらが一人多い。さらに、こちらもチームとして連携をとって行動している。

 いくら相手がスターだろうが、これだけの不利な条件で負けるわけがない。

 一人、また一人とキルを奪って全滅させた。


 今回のルールはカーゴだ。これで勝ち、というわけではない。

 勝利条件を満たすため、攻撃側の俺たちはそのままカーゴをゴールに向かって進めた。


【Miu:ザッケンナ!!】


 すると、リスポーンしたミアが単騎で突っ込んできた。

 これには俺も呆れてしまった。

 無謀すぎる。


【GarbageGadget:山本殿。また壁でござるか?】

【Kyo:いや、いらんだろ】


 壁はディフェンスを孤立させるために使ったのだ。そんなことをせずともミアは一人。

 こちらは五人、どうやってもこちらが負けるはずがない。

 ミアはこんな簡単なことも忘れるほど頭にきているのだろうか。


 こんなときは落ち着いて“リグループ”することが必要なのだ。

 キルされると、された順番にリスポーンしていくわけだが、先にリスポーンした者は、焦らず味方が全員復活するまで待つ。

 全員揃ってから再び敵と相対する。それがリグループであり、基本中の基本だ。


 ミアが玉砕してからしばらく、相手は攻めてこなかった。

 おそらく、ミアのリスポーンを他の四人が待ったのだろう。賢明な判断である。


 しばらくしてカーゴを中心に五対五の当たり合いとなる。

 今度はミアもむやみに突っ込んではこない。少しは学習したのだろう。


 こちらのカーゴはゆっくりとだが進んでいく。

 こちらのディフェンス、馬場先輩が体を張って守ってくれているおかげだ。

 これこそが真のディフェンスの姿というもの。


【UndyingB:スマン! 回復を頼む!】

【Kyo:了解です!】


 プレイヤーネーム〈UndyingB〉こと馬場先輩の要請により、俺は回復のアビリティを使用する。

 ディフェンスとサポートがこのように連携することで鉄壁の守りとなるのだ。


 今回の俺の使用するタレントは〈ロス・ゴンザレス〉という。

 ジェット噴射で宙に浮くスケートに乗ったタレントだ。

 自分を中心とした半径12メートルの範囲に、小回復の〈オーラ〉を放つ。〈オーラ〉は攻撃力アップに切り替えることもできる。


 さて、今度は俺の出番だ。

 俺はスケートを駆り、壁を走った。このスケートは壁走りができるのだ。

 そのままミアの背後に回った。


【Kyo:くらえっ!】


 俺は壁を蹴ると、スケートをミアの背後に押し付けた。

 スケートの裏からでるジェット噴射により、ミアは3メートルほど前方に吹き飛んだ。

 これが〈ロス・ゴンザレス〉のアビリティ、〈ジェットスタンプ〉である。


【Kyo:山県、今だ!】

【GarbageGadget:お任せを】


 飛び出した格好になったミアと、彼女の味方との間に〈グレートウォール〉を呼び出す。

 再び、彼女は味方と分断された。


 これが、俺がこのタレントを使用した理由である。


【Miu:クソ! 押しやがった!!】


 こうなれば先程と状況は同じである。

 ミアを排除し、残りを片づける。


 また俺たちのカーゴは進む。

 まもなくゴールだ。前方に黄色く光った床が見えてきた。

 ミアは、これ以上進ませまいとカーゴに取り付いてくる。


 が、その場所はあまりよろしくない。

 三度、ミアの背後に壁を作った。

 そこはちょうど道が狭くなっている場所、いわゆる“チョークポイント”だった。


 マップにはそのような場所が点在している。トンネルだったり、門だったりだ。

 そんな場所で、一歩でも前に出てしまうのは危険なのだ。


 それはまさに“ライン超え”というやつだ。

 焦ったミアにはそのラインが見えていなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る