第14話 「限られた時間でできること」

 俺の考えたやり方は性急すぎる。それはよくわかっている。

 急いては事を仕損じる、というが、そうも言っていられない事態が生じるのが人生というものだ。


「準備と言われましても、あと三日しかないでござるよ!」


 山県が不安顔になるのはもっともだ。

 俺とて顔には出さないようがんばっているが、内心は不安たっぷりだ。


 ミアたちとのカスタムマッチは三日後に決まった。

 大会はさらにその三日後だ。

 あまりに時間がない。


「ああ、だから一刻を争う。すぐに練習するぞ」

「そう言ってもなぁ。付け焼き刃で勝てる相手じゃないぞ?」緊急で部室に集まったチームメンバーの一人、馬場先輩は腕組みして眉間にシワを寄せて言った。


 黒髪のスポーツ刈りで、背も俺と同じくらい大きい。浅黒い肌は健康的で、何らかのスポーツ選手と言われても誰も疑問を持たないだろう。

 ポジションはディフェンスで、ミアとロールが被っている。スクリムは参加するが大会へは不出場の予定だ。


「何か作戦があるんだろう? 僕にはそう見える」縁無し眼鏡の真ん中を、人差し指で押し上げて言うのは秋山先輩だ。


 かなりの痩せ型で、薄く白い肌はあまり外に出て体を動かすことが無いのだろうと想像させる。噂では二年の中で、トップレベルで成績優秀らしい。PCの前に座る姿は様になっているが、ゲームより表計算ソフトでも操っていそうだ。

 試合では俺と同じサポートとして一緒に戦うことになる。いわば相方だ。


「大会じゃないけど、ああまで言われて負けたくないよねー」


 そう言う高坂は黒髪マッシュで丸縁黒メガネ。

 身長は平均的だがすこし運動不足なのか脂肪率は高め。よく菓子パンを食っているが、彼にはとても似合っている。見ると手もクリームパンのようだ。

 こう見えてロールはアタッカー。しかもかなりの実力者だ。ランクはダイヤだが、スターまで目前ということだ。


 この三人に俺と山県を加えたのが今回のメンバーだ。

 部長と内藤先輩はこの件に関わらない、というのがあちらの出した条件だった。


「作戦はこれからお伝えします。しかし、それほど難しいものではありません。俺と山県以外は普段どおりやってください」

「それで良いのか?」


 秋山先輩の瞳が曇った。

 もっと妙案でも出てくるのかと期待していたのだろう。


「馬場先輩のおっしゃる通り、付け焼き刃でどうにかできる相手では無いでしょう。みなさんは普段から築き上げたものがあります。それを崩すのはよしましょう。今から何かできるとすれば、それは俺たちです」

「拙者は何をすれば?」

「何、そんなに難しいことじゃない」


 事前に十分な訓練期間が設けられない場合、作戦はできるだけ簡単なほうがいい。

 これから山県に練習してもらうことはたった一つだ。



 部室の機材は使わせてもらえることになった。

 俺たちは五台横並びの席につく。


 通路を挟んだ別の列に、ミアが一人で座る。

 彼女のチームメンバーは全員、オンラインで参加することになっていた。


 武田部長、内藤先輩、三条先輩はさらに通路を挟んだ一番窓際の列にいた。

 アドバイスは禁止されているから離れてもらったのだ。

 お三方にはカスタムマッチの立会人、そして観戦者として来ていただいた。


【Miu:こっちも揃ったよ。いつでもどうぞ】


 ミアのプレイヤーネームは〈Miu〉。同じ空間にいながらわざわざネットを介してチャットしているのは妙なものだ。

 だが席が離れているので、会話するには大声を出す必要がある。

 それよりは効率的というわけだ。


【Kyo:ではロビーへ】


 俺は招待コードを送った。

 カスタムマッチはルールなどを設定したカスタムルームを作成するところから始まる。

 ルームには誰でも入れるわけではない。招待コードを受け取ったものだけだ。


 続々とルームへメンバーが集まる。

 相手チーム、こちらのチーム、そして観戦の三人が揃った。


 俺はゲーム開始のボタンをクリックした。



 最初のぶつかり合い。これが終わるまでは相手がどのタレントを選んだかはわからない。

 俺たちの構成を見て、果たしてミアはどう思うだろうか。


――はぁ? 嘘でしょ? 舐めてんの? こんなのメタじゃないじゃん


 おそらくこんなところだろう。

 メタとはゲーム内での流行、環境、傾向のことを言う。


 山県には現状、一切トッププレイヤーには使われていない〈メイファン〉というタレントを使ってもらったのだ。

 それはアタッカーながら攻撃力は中途半端。どちらかと言えば守備に使いやすいアビリティを持っている。

 そこが利点であるが、火力が落ちるという理由で使われないことが多い。


 案の定、ミアは強気で突っ込んできた。

 彼女の使うタレントは〈エレクトロスタンツィヤ〉というロボットだ。

 小型縮退炉を内蔵しているというぶっ飛んだ設定で、その高出力を生かした機動力が売りだ。


 最前線に飛び出たミアは、ドシンと音を立てて着地すると、銃になっている両手をこちらに向けた。

 リロード不要の強力な機銃だ。


――かかった。

 俺は思わず口元を緩めた。

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