第13話 「キャリー」
ミアの腕前に関しては何も言うことは無い。
俺ごときが口出しできるレベルではなかった。さすが、スターだ。
ただ、人格にはちょっと難あり、だ。
【Miu:回復! 遅い! 何やってんの!】
【Kyo:ああ、スマン】
またしてもミアから叱責が飛んでくる。
俺も俺なりにサポートを頑張っているのだが。
こういう活きの良い若手が台頭してくることは、とくに若さが物を言う業界ではよくあることだ。
実力は確かだが、それゆえに周囲のレベルの低さに苛立ちを感じてしまうのはわかる。
しかし、それをむき出しにしてぶつけてしまうのは未熟と言わざるをえない。
そうして味方からの信頼を得られず、消えていった者を俺は前世で何度も見てきた。
彼女はディフェンスというロールである。
ディフェンスの役目を担うタレントは、体力と防御力が高い。
だから倒されにくい。
しかしそれはキャラクターの性能であり、彼女の能力ではない。
彼女はそれを取り違えてしまっている。
【Miu:はぁ? こんなのも倒せないの? ざっこ!】
【GarbageGadget:でゅへへ。申し訳ないでござる】
自己肯定感が強い。自己中心的。自信過剰。我儘。あと口が悪い。
こういうタイプに直接的に注意、指導、指示、命令などはしてはいけない。
余計に反発してしまうからだ。
なんとか本人に自覚させなければならないのだ。
なかなかの難題だ。
【Miu:キモオタ! アタシが守ってる間に倒して!】
【GarbageGadget:御意!】
ミアは顔は良い。だからそんな性格でもやってこれたのだろう。
さて、どうしたものか。
※
一息つこう、ということで俺たちは学校のカフェテリアへと移動した。
学校内の店だが、近隣住民からも利用される洒落た店だ。
黒い壁には大きな風景画がいくつか飾られている。
薄暗い、控えめな照明。店内にはいつもジャズが流れている。
俺たちは五人でテーブル席についた。
周りの席には男女のカップルが多い。
「アタシの実力。分かってもらえた?」
ブラックコーヒーを一口飲み、マグカップを置いたミアの第一声がそれだ。
「いやー、さすがでござるよ、ミア殿! スターの実力、しかと拝見させていただきました!」
「ふん。当然でしょ」
またマグカップを口にあてると、そのまま横目で山県の隣にいる俺を見てきた。
何も言わない俺に苛立ったのか、強めに音を立ててマグカップを置く。
「響助は? どうなの!」
「ん、ああ。良かったよ」
「良かったって? 具体的には?」
「思ったより良かった」
「はぁ!?」
ミアは両手でテーブルを叩き、立ち上がった。
漫画なら頭から蒸気でも吹き出していそうだ。
「思ったよりってどういう意味!?」
「ん? どういうもこういうも、そのままだが?」
「なんで響助みたいな素人にそんな言われ方しなきゃいけないわけ!?」
やはり思った通りの反応が返ってきた。
こういう人間はプライドが高い。それを少し、くすぐってやるのだ。
「いや、褒めてるんだが? これなら多少は戦力になりそうだ」
「多少!? アタシ、スターなんだけど!」
「ソロでか?」
「は? はぁ?」
「だから、ソロでかって聞いてるんだが。まさか、パーティー組んでないだろうな?」
「く、組んでるけど? それが悪い? チームゲームなんだから当たり前でしょ?」
やはり、か。
ミアのような独りよがりの人間は、たいてい周りのサポートがあるのだ。
ソロでは空回りし、勝てないのだろう。
「なるほどね、強い人と組んでキャリーしてもらったわけだ」
「な! んなわけないでしょ! アタシの実力だよ!」
キャリーとは、自分より上手いプレイヤーにランク上げを手助けしてもらう行為だ。
そこまで言われてミアもだいぶ怒っている様子だ。こめかみに血管が浮かびだした。
さすがにここいらが引き際だな。あまりやりすぎると逆効果だ。
「いやぁ、上手い人と知り合いでうらやましいよ。今度紹介してくれないか? それなら俺もスターにいけそうだ」
「響介が? 笑わせないでよ。いけるわけ無いでしょ!」
なかなかはっきり言ってくれる。ま、その通りなんだが。
ミアは顎を上げ、文字通り座った俺を見下している。
さて、仕込みが終わったところで仕上げに入ろう。
「そうか? それじゃ試してみるか?」
「試す? ためすって何を?」
「そうだな。ウチらのチームとミアのパーティーでカスタムマッチするってのはどうだ?」
「ふーん。先輩たちの力を借りようってわけ? それなら勝てるでしょうけど。それ響介の力じゃないから」
「確かにな。だからこっちは部長と内藤先輩は入れない。代わりに俺と山県が入る。ミアが入る前の大会メンバーだな」
「そこまで言うならやってやるよ。向こうの予定も聞くけど、大会前には集まれるでしょ。響助が負けたら謝ってもらうからね! 逃げるなよ!」
「ああ。そっちのメンバーには連絡しといてくれな」
ミアはコーヒーを半分ほど残したまま、厚底の黒いエナメル靴から発せられる靴音を大きく響かせて店外へ出ていった。
彼女が騒がしかったせいだろう。周りの人たちはこちらを見て小声でなにやら言っている。
「山本殿。あんなこと言って大丈夫でござるか?」
「ん? ああ。ま、大丈夫だろ」
山県は俺たちのやり取りを聞いて青い顔をしている。
コイツには悪いが、実のところ勝算はない。だが、ここで勝てれば一気にチーム力が上がるだろう。
俺は自分のコーヒーを一気に飲み干した。嵐が去り、心地よいジャズが耳に入ってきた。
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