第11話 「〈GATE〉とは」

 大会はオンラインで開かれる。

 オープンなもので、参加資格は特になし。


【GarbageGadget:まぁ腕試しにはもってこいってわけでござるな】


 これは〈esports GATE〉という、eスポーツに特化したメタバース・プラットホームからのメッセージだ。

 PCで動くものだが、一部の機能はスマホアプリとして利用できる。

 メッセージ送受信はその一つで、スマホさえあれば、友達登録してる同士はいつでもこのように会話ができる。


 送信してきた〈GarbageGadgetガーベージガジェット〉というのは山県の別名だ。ゲーマーというのは、通常このようにプレイヤー名というものを各々考えて名乗るらしい。

 いわばあざな、通称、あだ名などのようなものだ。


 というわけで、俺たちは講義の合間にも関わらず、こんなやり取りをしていた。

 失礼な話だが、この講義はちょっと退屈だったのでちょうどいい暇つぶしになった。


【Kyo:どれくらい参加するんだ?】


 俺のプレイヤー名は〈Kyo〉とした。無論、本名の響助から来ている。

 こんなものはあまり考えすぎてはいけない。奇をてらったり、ウケを狙ったり、あまりに気取りすぎてもいけない。覚えやすいように短い方がいい。山県は長すぎだ。


【GarbageGadget:今のところ、百名は超えているようでござるよ。しかし、こういうものは締切間際になってどかっと増えるもの。最終的にはこの倍くらいではないかと予想いたしますぞ】

【Kyo:なかなか大規模じゃないか。小さい大会と聞いていたが】

【GarbageGadget:それは参加人数というより、参加者のランクの話でござりましょう。プロやトップ勢が参加するような大会ではございませんので。競技大会、というよりはお祭りに近いようなものですな。目的は参加者同士の交流を深めるため、そう大会の説明にも書いてございますし】


 なるほど、だからこそ参加資格を設けていない、ということなのだろう。

 そのかわり、というわけでもないだろうが、賞金、賞品なども特にないらしい。


【Kyo:しかし、完全オンラインというのも不安があるな。不正しようと思えばできるのでは?】

【GarbageGadget:完全に無い、とまでは申しませんが、そのような方はほとんどいないと信じておりますぞ】

【Kyo:性善説か?】

【GarbageGadget:いえいえ。〈GATE〉には強固なチート防止ツールがついております。それでも不正が発覚した場合、アカウントが削除されてしまいます。アカウント作成時にご経験されたと思いますが、〈GATE〉には生体認証、SNS認証と非常に厳しい認証システムが導入されております。ひとたび不正にてアカウント削除となった場合、その者が新たなアカウントを作ることは事実上、不可能です。そこまでのリスクを冒してまで、このような小さな大会で不正をするでしょうか?】


 割に合わない、ということか。

 それで全国から大会に参加する、ということが実現できているのだから〈GATE〉は便利だ。

 しかも、このシステムを作った人々は主にボランティアだというのだから驚く。


 eスポーツもスポーツである以上、平等でなくてはならない。

 どこかの企業が作ると、どうしてもどこかへ利益誘導するということが起こり得る。

 だからこそ、各国から志願したボランティアにより、〈GATE〉が作られたそうだ。


 ボランティアといっても無報酬ではない。

 〈GATE〉に寄せられた寄付金、広告料、アイテム・グッズ販売料などは、その貢献度によって運営やエンジニアに分配されているそうだ。


【Kyo:俺はサポートで参加するつもりだが、山県は希望するロールはあるのか?】

【GarbageGadget:拙者はアタッカー希望でござる。もっとも、先輩方が譲ってくだされば、ですが】


 アタッカーは人気がある、ということのようだ。

 にしても山県までアタッカー志望とは意外だった。

 偏見だが、目立つのはあまり好きでなさそうに見えたからだ。


 アタッカーはバンドで言うならボーカルやギターのようなもの。

 素人でも活躍がわかりやすい。

 そしてバンドでもそうであるように、モテる。


【Kyo:使うタレントは?】

【GarbageGadget:拙者は〈田島一徹〉使いでござるよ】


〈田島一徹〉は〈田島竜二〉の兄、という設定のタレントだ。このように各タレントに設定があるのもSSの特徴だ。

〈一徹〉はスナイパーライフルを使った狙撃を得意としている。


【GarbageGadget:やはりこう、自分は安全地帯に身を隠しつつ、遠距離から相手をキルしていく。それが得も言われぬ快感でござりますなぁ】


 話を聞いていると、どうも山県は俺の思うアタッカーのイメージとは違うようだ。

 なにかこう、ジメッと湿ったものを感じる。

 まぁ性格的にはスナイパー向きかもしれない。


 この俺達の希望はめでたく通った。

 先輩方が譲ってくださったのだ。

 まずは新入生の俺たちが楽しめること、それを優先したのだろう。


 俺たちは大会目指し練習を続けた。そして、大会まであと一週間と迫ったところ、とある事件が発生した。

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