第10話 「タレントたち」

 すると視界が一変した。

 これまではタレントの目から見た景色がディスプレイに表示されていたのだが、それが上空からのものになったのだ。

 高さは20メートルほどだろうか。真下の地面を見ている状態だ。


「そのアルティメットは〈ソル〉、衛星からのビーム兵器を使うアビリティだ」

「ビーム兵器!?」


 ゲームとはいえ、あまりにも現実離れした攻撃方法に驚いてしまった。


「さ、好きなところでクリックしてみて。試しにこのロボットの上がいいかな」


 部長の言う通りしてみると、視点は元に戻り、指定した場所には直径10メートルほどもある光の柱が出現していた。

 その光に飲まれたロボットは一撃のもとに破壊されてしまった。


「おお! 凄まじい攻撃ですね!」

「アルティメットだからねぇ。ちなみにあのビームに当たったら即死なんだ」

「それじゃ強すぎませんか?」

「いや、クリックしてからビームが出るまで少し間があったろ? それとビームが落ちる地面には赤いリングが出現する。予告されるから、逃げる猶予があるんだな。上手く使わないと簡単に逃げられてしまう。絶対に倒したい敵をど真ん中に入れるのがコツだ」

「なるほどー」


 その他のタレントたちも一通り触り、この日の練習は終わった。


 わかったことは、タレントたちはすべて、常人ではないということだ。

 たった五対五の小規模な戦いと思っていたが、それぞれが一騎当千の超兵士たちなのだ。

 なるほど、タレントと言われるのもうなずける。


 俺が経験してきた戦争は、数万対数万がぶつかり合うものだった。

 しかしこの世界、近年ではそのような戦争は無くなっているみたいだ。

 特殊な訓練を受けた少数精鋭による、小規模な戦いが多くなっているそうな。


 このゲームはそれをうまく遊びとして昇華している。


 ゲームとはいえ、条件を満たせば俺の《大軍師》は発動するはず。

 うまくすれば高校の時のように、このチームを導けるかもしれない。


 ゆえに、まずはチームになじまなければなるまい。

 人一倍、懸命にやるべきだろう。でなければゲーム初心者の一年の言うことなど、誰が聞くものか。


 このゲームを誰よりも理解する。そうすることに決めた。

 操作は完璧である必要はない。俺は選手になる気はないし。

 コーチあるいは監督のような立場がいい。

 そのために、隅々まで知り尽くす必要がある。


 最近は素晴らしいことに、動画コンテンツが充実している。

 上級者たちが惜しみなく自分たちのプレイやコツ、知識を動画にして公開してくれているのだ。

 文字の情報も重要だが、やはり動いているものを見るのが早い。

 インターネットという発明は偉大だ。前世でもこれがあれば、と時々思う。


 それから暫くの間、寝る前に動画視聴をするのが日課となった。

 そして部活では、それを実戦で試す日々。

 勉強と部活、それぞれとても充実していた。



「にしても、山本は成長が早いな」


 部長が顎をさすりながら言う。出来の良い弟子を見る師匠、という趣だ。


「部長のご指導のたまものですよ」

「いやいや。山本の頑張りだよ。ところで、どのロールを希望してるの? いろんなのを使ってるみたいだけど、そろそろ絞ったほうがいいんじゃないか?」


 部長の言うことはもっともだ。

 選手を目指すのなら俺もそうしただろう。

 全部を極めるのはとても不可能だし、ただの器用貧乏になってしまいかねない。


 だが、俺は、俺の目指すもののために、全部のタレントをまんべんなく使いたかった。


「まだ決めきれないんですよね。今はまだ、ゲームに慣れる段階だと思うんで」

「うんうん。基本は大事だしね。ま、そんなにあせる必要はないよ。ちなみに、サポートが一番レギュラーになる近道かな」

「なんでです?」

「サポートは人気が無いから……」


 サポートはその名の通り、味方の補助をするのが役割だ。

 縁の下の力持ち、そういった動きになる。

 どうしてもアタックやディフェンスと比べると華がない。

 人気薄なのはそういう理由だ。


 チームにはすでに二人のサポートがいるが、どちらかがロールを変更したがっているのだろうか?

 他にいないから、イヤイヤやっているのだろうか?


「サポートも面白いと思うんですけどねぇ」

「そう! いいサポートがいるチームはやはり強いからね」


 少年野球ではあまり動けない子がキャッチャーをやらされたりする。

 サッカーではキーパーをやるのがお約束だ。

 しかしプロレベルになると、その二つはチームにとって要のポジションとなる。


 ゲームでもそういう現象があるのだろうか。

 すこしサポートのタレントを重点的にやってみようか?


「実はね、近々、ちょっとした大会に出場予定なんだ」

「おお、大会ですか、いいですね!」

「といっても、コミュニティ主催の小さなものなんだけどね。賞金も出ないけど、その分気軽に出場できるのがいいんだ。そこで、新入り二人にも出てもらいたいと思ってるんだ」

「俺たちがですか!?」

「うん。勝ち負けは気にしなくていいからね。大会というものがどういうものか、知ってほしいんだ」

「ありがとうございます! 絶対出ます!」


 実戦に勝る経験無し。

 この期を逃す手は俺には無かった。

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